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「ノーベル賞は常に平和のためにある。受賞の名誉が少しでも平和に貢献できればうれしい」。ことしの文学賞に決まった長崎市生まれの英国人小説家カズオ・イシグロさんの言葉が印象的だった。平和の意義は母から教わったという

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5歳まで長崎で育ち、海洋学者だった父の仕事のため一家で渡英。数年のつもりの滞在が延びて定住し20代で英国籍を取得した。会見では、英国人作家か日本人作家かと問われて「はっきりした答えは見つけられない。ただの作家である」と答えている

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物の見方、世界観に日本が影響している。一部は日本人との意識もある。日英の感性を昇華させ、新たな地平を開いたからこそ広く読まれるのだろう。移民排除や自国第一主義など世界に広がる排外主義への危機感が、国を超えた「ただの作家」にスポットを当てたのではないか

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“普遍化文学”の力を感じさせたのは「わたしを離さないで」(05年)。映画化され日本でも舞台やドラマになった代表作だ。臓器提供のため寄宿舎で育てられるクローンの子どもたち。葛藤の中で過酷な定めを受け入れ、友情に恋愛にと懸命に生きる

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なぜ不条理に抵抗しないのか、もどかしく感じつつも引き込まれる幻想的世界だ。読後感は、死を覚悟し父母や愛する人への思いを吐露した戦没学生の手記「きけわだつみのこえ」と重なった。平和は国や人種を超えた共感に宿る―。そう教えてくれたイシグロさんのうれしい受賞である。

(10月7日)

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