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衆院選に問う 与党圧勝 改憲は信任されたのか

 衆院選は与党が勝利した。新党が立て続けに登場する目まぐるしい展開の末、自民、公明両党が過半数を大きく上回る議席を獲得している。

 2012年の政権復帰以降、国政選挙で5連勝だ。安倍晋三首相の政権基盤はさらに強まった。来年、党総裁連続3選を果たせば任期は21年9月まで延びる。

 「憲法改正」を宿願とする首相である。今後、一気に加速させる考えだろう。勝ったからといって改憲提案が支持されたことにはならない。民意に向き合い、誠実に政治を進めるべきだ。

<求心力回復の打算>

 首相は少子高齢化や北朝鮮への対応で信を問いたいと「国難」選挙に踏み切った。国会で議論すべき問題であり、衆院を解散する理由にはならない。消費税増税の延期を口実にした14年に続いての大義なき解散だった。

 理屈は後付け、政権を維持するため与党に有利なタイミングを見計らったにすぎない。勝てば、森友学園や加計学園の問題などで揺らいだ求心力を取り戻せるとの打算もあっただろう。

 首相は5月、改憲派の会合に党総裁としてビデオメッセージを寄せ、踏み込んだ改憲提案をしていた。9条に自衛隊を明記する考え方を例示し、東京五輪・パラリンピックが開かれる20年の施行を目指したいとする内容だ。

 自民は政権公約で初めて改憲を重点項目に位置付けた。首相提案を踏まえ、自衛隊明記など4項目を記している。

 特定秘密保護法、安全保障関連法などを成立させてきた安倍政権は総仕上げの段階に入る。動向を注視しなくてはならない。

<“敵失”に助けられ>

 今回の選挙で、自民の掲げる改憲が国民の支持を得たとすることには異を唱えておきたい。

 幾つか理由がある。

 第一に、野党の戦略ミスが与党を利した面があるからだ。突然の解散表明を受けて野党第1党の民進党は事実上解党した。小池百合子東京都知事が率いる希望の党への合流、枝野幸男元官房長官らが結成した立憲民主党への参加、無所属―と分裂している。

 民進の前原誠司代表は、与党と1対1の構図をつくるとして希望への合流を打ち出したものの、裏目に出た形だ。希望が立憲民主の候補に対抗馬を擁立し、共産党は希望を「自民の補完勢力」として候補を立てるなど、各地で野党の候補が乱立した。

 1人しか当選しない小選挙区制だ。政権批判票が分散すれば、相対的に自民の候補が浮上する。分かりきったことなのに野党各党はみすみす勝利を許した。

 小選挙区制は政党の得票率と議席の占有率に開きが出やすい。圧倒的な議席数が有権者の支持をストレートに映し出すものではないことを与党は踏まえるべきだ。

 第二は、自民の公約が生煮えなことである。「自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消」の4項目を中心に党内外の十分な議論を踏まえ、初めての改憲を目指すとした。どこをどう改めるのか、具体的な内容は分からない。

 自衛隊明記は首相が唐突に打ち出したものだ。12年の党改憲草案では9条を大きく書き換えて「国防軍」保持を記している。党内論議もまとまっておらず、明確な考えを打ち出せる段階ではない。

 公約の柱に据えたとはいえ、首相の街頭演説などで積極的に訴える姿は見られなかった。改憲勢力とされる希望や日本維新の会を含め、今回の選挙戦で改憲を巡る議論は深まらなかった。この点でも信任されたとは言えない。

<数頼みは許されず>

 第三に、政治の転換を訴えた立憲民主の躍進だ。希望の選別、排除で急きょ結成されたにもかかわらず、急速に支持を広げ、一定の存在感を示した。

 集団的自衛権の行使を可能にした安保法に反対の姿勢を示し、公約には「安保法制を前提とした憲法9条の改悪に反対」と記している。立憲民主への支持は首相の政治手法や改憲提案に批判的な民意の表れと受け取れる。

 共同通信社が衆院選に向けて実施した全国電話世論調査では、安倍首相の下での改憲について「反対」が「賛成」を上回る。

 憲法は国民の権利を守るために国家権力を縛るものだ。改めるには国民の大半が理解、納得するだけの理由がなくてはならない。

 とりわけ9条のように賛否が二分する項目を国民投票に持ち込めば社会に深刻な分断を生じる。数頼みは許されない。改憲の発議は慎重であるべきだ。

 第2次安倍政権の発足から5年近く、与党の数の力による強引な国会運営が繰り返されてきた。国会を熟議の場、多様な民意が反映される場にできるか。国民の代表としての自覚と責任感が与野党ともに厳しく問われる。

(10月23日)

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