長野県のニュース

斜面

こよいは「十三夜」の月が顔を出してくれるだろうか。中秋の名月から1カ月近く。晩秋にさえざえとした光を注ぐ「後(のち)の月」だ。少し欠けた姿が哀感を誘い、日本人の心情に合うのだろう。十三夜をめでるのは日本固有の風習らしい

   ◆

樋口一葉に「十三夜」という小説がある。官吏の妻となり子も授かったお関は夫からつらい仕打ちを受け続けた。十三夜の夜更け、離縁を決意し実家に帰るが、父親にさとされ涙ながらに夫の元に戻るしかなかった。その帰途、偶然の再会が待っていた

   ◆

拾った人力車の車夫が幼なじみの録之助だった。互いに恋心を抱きながら実らなかった仲だ。お関が嫁ぐと録之助の生活は荒れた。妻子を得たものの放蕩(ほうとう)は続き家族を失った。身の上話を交わした二人は万感の思いを抱きつつ別れ、さやけき月が照らす道を別方向に歩き始める―

   ◆

時の流れとともに満ちては欠ける月に人生を重ね合わせる。さだまさしさんの作詞作曲で鈴木雅之さんが歌う「十三夜」は、今はいない大切な人を慕うバラードだ。〈どこかでこの月をみてる〉君の面影は色あせない、と。切なさの先に明かりも見える

   ◆

一葉の生涯には後世の研究者が「奇跡の14カ月」と呼ぶ時期がある。1896年11月、肺結核のため24歳で亡くなるが、その年の2月まで傑作を次々世に出した。一葉にとって月こそわが心を映す鏡だった、と作家の森まゆみさんが書いている。こよい十三夜に思いを重ねてみるのもいい。

(11月1日)

最近の斜面