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世の中で最も残酷なこと。それは大きな痛みや苦しみを抱えた人間に誰も振り返らず、誰も助けないことだ―。ルポライター鈴木大介さんは自著「最貧困女子」にそう書いた。社会の底辺であえぐ女性の実態を丹念に追った現場報告だ

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幼い娘を残し自殺したシングルマザーは売春で糊口(ここう)をしのいでいた。娘が作った折り鶴を財布に入れていた。多くは虐待を受け心に傷を持つ。自殺未遂は珍しくない。鈴木さんは憤る。社会は救うどころか、ごみを見るような視線を投げかけている、と

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「9人とはツイッターで知り合い、自殺を手伝うと伝えて自宅に連れ込み殺害した」。神奈川県座間市の死体遺棄容疑事件で逮捕された27歳の男の供述だ。被害者9人のうち8人が10〜20代女性とみられる。何に追い詰められていたのか。どんな思いで男の部屋に入ったのだろう

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八王子市の23歳女性は長く家に閉じこもっていた。6月に母親を失って自分を責め、適応障害もあってグループホームに入った。〈死にたいけど一人だと怖い。一緒に死んでくれる方いましたら〉。ツイッターへの書き込みに男が目をつけたとみられる

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株価上昇に浮かれる社会の片隅で隣室の人にも気付かれることなく、ひっそり奪われた命だ。殺害方法や異常性ばかりが強調されていては目が曇る。格差が拡大し見て見ぬふりの残酷さは広がっていないか。一隅を照らし手を差し伸べなければ「1億総活躍社会」などむなしく響くだけだ。

(11月2日)

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