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あすへのとびら ライチョウ保護 神の鳥を未来へ伝える

 信州大名誉教授の中村浩志さん(鳥類生態学)を長野市内の研究所に訪ねた。

 絶滅が心配されるニホンライチョウの研究を長年続けている。70歳になった今年も保護活動で85日間、山に入った。

 南アルプス・北岳でのケージ保護が今年、いい結果を残すことができたという。「先の見通しがようやく開けてきた」と明るい表情で話していた。

   <つかんだ手掛かり>

 ひなの死亡率が高いふ化後1カ月間ほど、母鳥と一緒に金属製のケージに入れて天敵から守る。昼間は外に出して自由に運動、採食をさせ、夕方ケージに誘い込む。人間を恐れない鳥だからこそできるやり方だ。

 昨年は15羽のひなを保護したものの、保護が終わって放鳥したあと動物に襲われたのか、秋には3羽しか残らなかった。今年は16羽保護して15羽残った。

 天敵を駆除した効果が大きかったと中村さんはみる。

 今年初めてケージの周辺で6匹のテンをわなで捕まえ、動物園に移した。問題の深刻さを環境省も認めて特別保護地区内での捕獲を許可した。

 あと2年続ければケージ保護の技術を確立できそうだという。

 ケージ保護は環境省が3年前から始めた事業の一環である。同省は並行して平地での人工飼育を進めている。北アルプス・乗鞍岳で採取した卵を大町山岳博物館など全国5カ所の施設に運び、繁殖を試みている。

 今年は大町と上野動物園、富山市ファミリーパーク3施設で各1組、計3組のペアが60個の卵を産んだ。そのうち22個がふ化し12羽が元気に育っている。

 人工飼育の命が次の代へつながった。大きな前進である。

 人工飼育で難しいのは感染症だ。生後10日ほどで死ぬケースが多い。かつて大町で2004年まで約40年続けた飼育が行き詰まったのも、感染症を克服する道が見つけられなかったためだ。

 研究はこの面でも進んでいる。母鳥の盲腸でつくられる盲腸糞(ふん)と呼ばれる特殊な糞をひなが食べることで、親から子へ腸内細菌が受け渡され、有害物質だらけの自然環境を生き抜く力を獲得することが分かってきた。

 いま京都府立大などで盲腸糞の内容の研究が進んでいる。解明が進めば“予防ワクチン”が開発できるかもしれない。

 ライチョウを脅かすものは他にも多い。ニホンジカが高山帯に進出し、ライチョウの餌となる高山植物を食べてしまう。乗鞍岳ではハシブトガラスが卵を捕食していることが確認された。猿がライチョウのひなを襲う様子も中村さん自身が目撃した。

 長野、新潟県境の火打山ではイネ科の植物が高山植物帯に入り込み、昨年から試験的な除去が始まった。高山植物を痛めないよう、丁寧に1本ずつ取り除く根気の要る作業である。

   <今なら間に合う>

 1980年代に3千羽ほど生息していたのが2千羽弱にまで減ったとみられている。生息地は信州とその周辺の高山に限られる。

 トキやコウノトリは保護に取り組み始めた時は既に数が減り過ぎて、絶滅を防ぐことができなかった。いま新潟県佐渡ではトキ、兵庫県豊岡市などではコウノトリの繁殖、放鳥事業が進められている。いずれも外国から譲り受けた個体を元にしている。

 ライチョウは今のところ、まとまった数が自然状態で維持されている。まだ間に合う。生息地の一つ御嶽山でも、心配された噴火の影響は大きくなさそうだ。

 伊豆諸島鳥島のアホウドリは生息地保全が効果を上げ、絶滅が心配な状況を脱しつつある。ライチョウでも希望を持ちたい。

 長野県が今年、情報提供や啓発活動をするボランティア「ライチョウサポーターズ」を募集したところ、約250人が講習を受けて登録された。県民の関心も高まっている。心強い。

 古来「神の鳥」として大事にされてきた。山岳信仰の生き証人としても貴重な鳥である。登山者の目の前を親子連れで悠々と横切ったりする。

 北アや南アの高山帯はもう雪に覆われている。キツネなどの天敵が里に下り、ライチョウにとっては安全で過ごしやすい季節になった。春に生まれたひなも母鳥と一緒に安らいでいることだろう。

 今年つかんだ手掛かりを確かな保護へとつなげていきたい。

(11月5日)

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