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朴教授に有罪 学問の自由を脅かす

 韓国の学問の自由を萎縮させる判決だ。

 従軍慰安婦問題に関する著書「帝国の慰安婦」で名誉毀損(きそん)の罪に問われた朴裕河(パクユハ)・世宗大教授にソウル高裁が罰金約100万円の有罪判決を出した。

 元慰安婦を中傷する意図は認められないと、無罪を言い渡した一審判決を覆している。朴教授が「先入観だけで出した判決」として上告するのは当然だ。

 韓国では慰安婦について「強制連行された少女20万人の性奴隷」との見方が定着しているとされる。この著書は、そうした見方が慰安婦の全体像を表していないとの認識から、女性らの貧困や人身売買業者の存在など多様な背景を提示した。

 帝国主義の下での女性搾取として日本の責任も追及した。日本語版も出版され、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞する評価を受けている。

 高裁判決は、自発的に慰安婦になった人もいるとする記述が虚偽事実に当たり、元慰安婦らの名誉を故意に傷つけたと指摘した。

 朴教授は元慰安婦たちの証言を丹念に拾い、本書を著している。判決に従えば、「強制連行」されたとする証言しか書けなくなってしまう。

 理解に苦しむのは、判決が「表現の自由の観点から議論が萎縮してはならず、本来なら刑事処罰は望ましくない」との考えを示していることだ。だから求刑の懲役3年に対し罰金にとどめたという。

 無理な折衷だ。政権の意向や世論に配慮したとすれば、司法の独立性が疑われる。

 有罪判決によって、韓国で慰安婦問題を巡る多角的な解釈が許されない空気がさらに強まり、議論の幅が狭まらないか心配だ。そうなれば、「韓日の信頼構築を通じた和解」という朴教授の執筆意図からも遠ざかる。

 慰安婦の共通理解を進めるため、当事者と支援団体、政府当局、有識者を交えた日韓の協議体をつくり、開かれた議論をする必要がある―。2年前の夏、ソウルで朴教授に話を聞いた時、そう訴えていた。

 安倍晋三首相が戦後70年談話の発表に向けて設置した「21世紀構想懇談会」も、アジア諸国を含む多国間の歴史共同研究を提唱した。だが、談話には盛り込まれず、沙汰やみになっている。

 慰安婦問題に限らず、歴史認識を巡る対立は多い。歴史の光と影をともに確かめ合い、一致点を探る営みが改めて求められる。

(11月6日)

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