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青酸殺人事件 認知症の被告どう裁く

 認知症を患った被告の裁判のあり方について、あらためて考えさせられる判決だ。高齢化社会が進む中、司法に重い課題が投げかけられている。

 青酸化合物による連続殺人事件で殺人罪と強盗殺人未遂罪に問われた筧千佐子被告に、京都地裁が死刑を言い渡した。公判前の精神鑑定で認知症と診断され、訴訟能力や事件当時の責任能力の有無が争点になっていた。

 「黙秘します」「毒を飲ませました」「覚えていない」…。法廷で筧被告は供述を二転三転させた。弁護側は、事件当時から被告は認知症で責任能力がなく、症状が進行して裁判を続ける能力もないと主張していた。

 公判では、精神鑑定をした医師が検察側の証人として出廷。弁護側は再鑑定を求めたが、地裁が却下した。判決は、事件当時は発症していなかったとする鑑定を踏まえて責任能力を認定。症状は軽度で、公判での態度も考慮すれば訴訟能力はあると判断した。

 裁判員による裁判である。それだけに見極めには難しさがあっただろう。鑑定は、一般の人には難解な内容が多い。閉廷後の記者会見で裁判員の1人は、複数の専門家に意見を聞く方が判断の助けになると思う、と述べている。

 訴訟能力の有無は、被告が自らを守る権利に関わる。裁判員に十分な理解と判断のよりどころをどう示すか。司法は医療関係者と議論し、しっかりとした手だてを講じる必要がある。

 逮捕・起訴から長い時間を経る間に認知症になったり、悪化したりして、訴訟能力が争われる事例はこれから増えるだろう。最高裁は昨年、統合失調症と認知症で訴訟能力の回復が見込めないとして、殺人罪に問われた被告の裁判を打ち切る初判断を示している。個別の事例ごとに丁寧に向き合っていくほかない。

 今回の裁判は、目撃証言や物証などの直接証拠が乏しく、状況証拠頼みだった。その上、被告の発言は変遷し、何が動機だったのかも本人から語られてはいない。青酸の詳しい入手経路も不明のままだ。そこにも認知症の被告を裁くことの難しさが表れている。

 6月の初公判から審理は135日に及び、裁判員裁判としては2番目の長さになった。それでも裁判員の負担軽減のため、証拠を絞ったという。

 死刑を回避すべき事情は見いだせない―。判決は断じたが、極刑を言い渡すに足りる真相解明はなされたのか、疑問が残る。

(11月9日)

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