長野県のニュース

斜面

物心がつくまでに両親が離婚、小学5年生の時に母は自ら命を絶った。児童養護施設や里親に預けられ、自分の居場所を失った。施設で虐待に遭い心に深い傷を負った。「消えたい」という思いを抱え続け自ら手首を切ったこともある

   ◆

岩岡千景著「セーラー服の歌人 鳥居」で知った鳥居さんの半生だ。義務教育をほとんど受けられず施設の読み捨ての新聞で言葉を学んだ。図書館で手にした歌集で出合った短歌に自分と同じ「孤独のにおい」がして「自分だけじゃないんだ」と思えた

   ◆

短歌の魅力に取りつかれ、歌人の吉川宏志さんに手紙を書いた。勧められて歌を詠み始めた。2012年、現代歌人協会の全国短歌大会に初めて応募し佳作に選ばれた。〈思い出の家壊される夏の日は時間が止まり何も聞こえぬ〉。短歌の世界が鳥居さんにとって居場所になった

   ◆

命を奪われた9人の若者も居場所を探していたのか。作家雨宮処凛(かりん)さんが本紙に書いている。自殺系サイトで出会った人たちは「死にたい」なんて学校や職場で言えば「引かれる」からネットでしか言えない。普段は必死で元気な自分を演じている、と

   ◆

鳥居さんを描いた著書はこの一首で結ばれる。〈便箋に似ている手首あたたかく燃やせば誰かのかがり火になる〉。弱くても生きていていい。そんな自分の姿が誰かに寄り添うことにつながれば、との祈りが込められているという。向き合って弱音を吐露できる世の中への願いでもあろう。

(11月14日)

最近の斜面