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在外被爆者 政府は理不尽を強いるな

 海外に住む被爆者に対して、政府はなおも理不尽を強いるのか。憤りを禁じ得ない。

 被爆者援護法の適用外にされたのは違法だとして、在外被爆者と遺族が損害賠償を求めている集団訴訟で、政府が和解に応じてきた姿勢を一転させた。死後20年が経過した場合、請求権が消える「除斥(じょせき)期間」にあたるとして遺族との和解を拒むという。

 在外被爆者は長く、援護行政から排除され、差別的な扱いを受けてきた。援護法は、医療費や手当を支給する要件として居住地を限定していない。にもかかわらず、法の趣旨を曲げる運用を続けた政府の責任は重い。

 国外に居住する場合は受給権を失うとする通達を旧厚生省が出したのは1974年。これに基づいて手当を打ち切ったことを違法と断じた大阪高裁判決が2002年に確定し、翌年ようやく通達は廃止された。

 けれども、国内居住者には医療費が全額支給されるのに対し、在外被爆者は上限付きの一部助成にとどまり、援護法の枠外に位置づけられた。医療費が適正か確認できない、という理由だった。

 これに関しても最高裁は15年、法の趣旨に反する排除と指摘し、全額支給すべきだとする判決を出している。政府の後ろ向きな姿勢は、司法から繰り返し厳しい批判を受けてきた。

 集団訴訟でこれまでに和解が成立した中に、死後20年以上を経ていた事例もある。除斥期間を今になって主張するのは、手のひらを返す態度と言うほかない。

 除斥期間は、不法行為があった時から一定期間が過ぎると損害賠償を請求する権利がなくなるという考え方だ。民法に明確な規定はなく、最高裁が示した条文解釈が根拠となっている。消滅時効とは異なり、当事者の認識と関わりなく経過し、中断はしない。

 ただ、除斥期間を理由に賠償を免れるのは著しく正義、公平に反するとして適用を認めなかった裁判事例もある。先の国会で成立した改正民法は、関係条文を改め、除斥期間の考え方を廃した。

 改正法はまだ施行されていないとはいえ、ここにきて除斥を持ち出した政府の感覚を疑う。そもそも、在外被爆者を置き去りにし続けてきた政府が除斥期間を主張すること自体、信義にもとる。

 どこに住んでいても被爆者であることに変わりはない。国は広く救済、援護を図る責務がある。不当な線引きで被害者を切り捨てる姿勢は改めなくてはならない。

(12月1日)

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