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豪雨で増水し諏訪湖の水位は上がり続けた。桟橋のくいにロープで固定した遊覧船「おやこはくちょう丸」の大きな船体が持ち上がって傾く。やがて桟橋も水没した。このままでは転覆する。藤森東洋平(とよへい)さん(74)は意を決し水に入った

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梅雨前線が災害を引き起こした2006年7月。当時、藤森さんは運航会社を経営していた。胸元まで水につかって桟橋をたどり、ロープを解いた。社員がボートで遊覧船に乗り移って約500メートル沖に移動、いかりを下ろし、転覆や岸への衝突を防いだ

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身をていして守り抜いた「おやこはくちょう丸」が引退の日を迎えた。1991年に就航し、観光客や学校の社会見学などに利用された。同年は約7万人を乗せたが、その後は乗船客が年々減り続けた。別の会社が事業を引き継いだものの維持管理の負担が重くのしかかっていた

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最後の運航になった昨日、諏訪湖は雲に覆われ冷たい風が吹いたが波は穏やかだった。船首が親ハクチョウで子ハクチョウが背中に乗る船体が湖上をゆっくりと進んだ。思い出の糸をたぐり寄せつつ、つかの間の船旅を楽しんだ乗船客もいたことだろう

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横浜で建造された船体を湖畔で組み立てたこと、楽しんでくれた大勢の子どもたち…。藤森さんには思い出が走馬灯のように浮かんでいるのではないか。最終運航の前日、かねて安全運航を祈願してきた観音さまに手を合わせた。大きな事故もなく無事役割を終えた感謝を込めたのだろう。

(12月1日)

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