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TPP政府試算 お手盛りが過ぎないか

 想定が甘すぎる。

 11カ国の環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が、国内に与える影響を政府が試算した。

 実質国内総生産(GDP)が年約13兆円増えると予測している。約75万2千人の雇用を生み出す一方、農林水産物の国内生産減少額は小幅と推計した。

 問題があるのは試算の前提条件である。

 GDPは「貿易・投資が拡大して生産性が高まり、賃金上昇や労働参加を促すと期待。所得増加は投資を生み、好循環メカニズムが持続する」ことが前提だ。

 企業の純利益が増えても労働者の賃金に反映されにくいことは、ここ数年の状況で明らかだ。物価は日銀の想定通りに上昇せず、経済の好循環は遠い。安倍晋三首相もしびれを切らせ、経済界に対し賃上げ要請を続けている。

 企業が賃上げに踏み切りにくいのは、少子高齢化や人口減に伴う国内市場の縮小懸念、国の財政問題など、将来不安があるからとされる。TPPとEPAが実現するとなぜ賃金上昇につながるのか。納得できる説明が必要だ。

 農林水産物への影響は、さらに政府にとって都合がいい試算だ。

 関税撤廃・引き下げで、一部の品目は単価の下落が避けられずに生産額が減少すると予測した。その半面で生産量や作付面積は減らないと見積もっている。その理由は「(政府が実施する)国内対策で引き続き農家所得が確保される」ためだという。

 農業は生産者の高齢化と後継者不足が深刻化し、構造的な改革が必要だ。歴代政権は数十年にわたってさまざまな施策を打ち出してきた。それなのに生産額は停滞したままだ。

 政府が11月に打ち出した国内農業の支援策は、機械導入や農地・施設の規模拡大を後押しする内容である。畜産農家の赤字を穴埋めする損失補填(ほてん)の割合を現行の8割から9割に引き上げることも柱だ。何度も繰り返された農業振興策と本質的に変わらない。

 過去に大きな効果がなかった施策が、今回は機能する根拠はどこにあるのか。現実味がない。

 試算にはTPPやEPAの利点のみを強調し、成果を訴えたいという政府の思惑が透ける。

 現実を見据えて客観的に分析しなければ、十分な国内対策はできない。見方が異なる専門家や生産現場の意見を取り入れ、試算をやり直すべきだ。最後に苦しむのは生産者である。

(12月24日)

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