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ラッキーが二つ重なりました―。木曽郡上松町の教育長を務める植原一郎さん(59)はそう振り返る。縄文時代草創期の「お宮の森裏遺跡」で見つかったクリが1万3千年前の実と特定された経緯だ。食用としては国内最古と確認できた

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最初は1993年の発見時。竪穴式住居跡の発掘の際、薄くはいだ土にたまたま細かな土器の破片が交じっていた。そこで土も全てそのまま埋め戻さずに目が1ミリのふるいにかけ、残ったものを水洗いした。見つかったのが石ころのような実2個だった

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報告書には草創期の食糧史料として極めて重要、と記載したものの、その後は倉庫に保管され話題にも上らなくなった。2015年5月、別の史料を探してお宮の森裏遺跡の発掘史料を見に来た民俗考古学者がクリの存在を知り、科学的な年代測定をするよう薦めてくれたという

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クリなしには縄文人の食と住は語れない。実は栄養価が高くドングリと違ってアク抜きの必要がなかった。湿気に強い木は建材に使われた。実や花粉が大量に出土した青森県三内丸山遺跡は約5千年前の縄文中期、ムラの周りにクリの林が広がっていた

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8千年さかのぼる草創期にクリを食べていた縄文人。1個には穴が開いている。糸でつるし保存していたのでは、との見方もある。「栗が笑(え)む」は実が成熟し、いがが裂けること。食した縄文人も笑顔を浮かべたろうか。そんな想像をできるのも幸運を呼び込んだ人たちの熱意のおかげだ。

(12月27日)

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