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企業の不祥事 「甘え」がまん延している

 1990年の米国映画「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3」にこんなシーンがある。

 時は55年。科学者が30年後の自分が作り出したタイムマシンを修理する。故障した部品を見て思わず声を漏らす。「無理もないか。日本製だとさ」。85年からやって来た若者はそれを聞き、反論する。「どうして? 日本の製品は最高だよ」

 54年末から始まった日本の高度経済成長は約19年間続く。発展を支えたのは、この間に飛躍的に向上した「品質」だった。

 映画で若者が暮らす85年には、すでに日本製の品質の良さが世界中で確立していた。そんな時代が過去になりつつある。



   <不正を知っても容認>

 企業の不祥事が今年も相次いだ。素材産業の神戸製鋼所、三菱マテリアル、東レで発覚した品質データ改ざん。日産自動車、SUBARU(スバル)の無資格検査問題―。品質に直接関係しかねない深刻な不正である。

 素材3社の不正は、いずれも取引先と決めた仕様を満たしていないのに、検査データを書き換えて製品を納入していた。

 見過ごせないのは、品質に関する認識の甘さだ。

 三菱マテリアルの子会社は90年代から指南書に従って改ざんを日常的に行い、役員が黙認していた。子会社前社長は、顧客から損害賠償を請求されると会社の破綻につながると考え、問題の製品の出荷を続けていた。

 神戸製鋼では、本来チェック機能を果たすべき品質保証の担当部署が関与していた。一連の不正を自主点検する過程では、工場の管理職を含む従業員が隠蔽(いんぺい)した。執行役員3人が不正を認識していたことも分かった。

 東レは不正を把握してから公表まで1年以上かかった。社長は記者会見で神戸製鋼などの不正がなければ「公表する考えはなかった」とも述べている。

 製造業の「川上」に位置する素材メーカーは、顧客企業の個別の注文に応じて多種多様な製品を取りそろえ、ものづくりを底辺で支えている。

 不正が見つかった製品は、アルミニウムや銅、ゴム製品のほか、鉄鋼まで広がった。納入先の企業は計約800社に上る。影響の大きさは明らかだ。

 素材メーカーは自らが置かれた立場を自覚していたはずだ。それなのに不正を容認する「甘さ」がなぜ生まれたのか。



   <品質の高さにおごり>

 背景には「おごり」も見え隠れする。顧客と取り決める仕様は、安全面から余裕を持って決められる。中には必要以上の高いレベルの仕様を顧客から求められるケースもあるという。

 不正が起きた現場には「品質は高いので、仕様から多少外れても問題ない」という意識がまん延していたのではないか。

 三菱マテリアルは28日に公表した特別調査委員会の中間報告書で「仕様書を順守する意識が不足していた」と結論づけた。

 同様の意識は、生産した自動車の最終検査を、資格を持たない社員が担当していた日産やスバルにも垣間見える。

 「失われた20年」でデフレにあえいだ日本経済。製造業は低価格でも利益が出るように、コスト削減競争に追われた。人員削減が繰り返され、能力以上の生産量も求められた。過度な労働も見過ごされ、現場は疲弊した。

 東レで検査データを書き換えていた品質保証室長は、人手不足で自ら検査を行わざるを得ないなど負担が増大。仕様外の製品を出すと納期に間に合わないと思い、不正に手を染めたという。

 日本企業は失ってはならないものを失ったのではないか。「品質を最優先する意識」である。



   <責任の所在明らかに>

 米CNNテレビは一連の不正を「世界がうらやむ卓越した技量を備えていた『日本株式会社』が揺れている」と報道。中国メディアは「日本製造業の匠(たくみ)の精神が踏みにじられた」と断じている。

 ここ数年続く企業の不祥事は、日本企業の競争力と信用を確実に奪いつつある。

 問題の根本はどこにあるのか。

 企業の不祥事に詳しい太田肇同志社大教授は、日本企業の共同体型組織の限界を主張している。

 係長、課長、部長、取締役と続く階層的な組織は、それぞれの上司の「納期を守れ、コストを削減しろ。利益を上げろ」という意向を忖度(そんたく)して動く。だれが何をいつ決めたのか、責任や権限も不明確になり、現場の実情も上層部に伝わらないとする。

 改善するためには「現場のプロ集団を少数の精鋭が責任を持って管理するフラット型組織への転換」が必要と訴える。

 問題は不正が発覚した企業に限られないだろう。「甘え」や「おごり」が根付いていないか、現場を経営が把握できているのか。日本企業は自らの足元を見つめ直す必要がある。

(12月30日)

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