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米の原爆開発者の姿追う 飯田生まれの大平さん、本を出版

無警告での日本への原爆投下に懸念を表明した科学者たちを追った著書「届かなかった手紙」を執筆した大平さん=都内無警告での日本への原爆投下に懸念を表明した科学者たちを追った著書「届かなかった手紙」を執筆した大平さん=都内
 飯田市生まれのノンフィクションライター大平(おおだいら)一枝さん(53)=東京=が、ユダヤ系ハンガリー人物理学者レオ・シラード(1898〜1964年)を追った著書「届かなかった手紙」を出版した。シラードはナチスドイツを恐れて渡米し、米政府に原爆開発を進言。開発に関わったものの、日本への投下前には威力を示す公開実験をして降伏を考える機会を与えるよう嘆願書を書いた。大平さんは、米国で科学者らを取材。「証言者が少なくなる中、市民が戦争や原爆の脅威への想像力を巡らせることがより大切になっている」と話している。

 シラードは1930年代に米国に亡命。ナチスドイツに先行されないために原爆開発を進めるようルーズベルト大統領宛ての手紙の草稿を書き、物理学者アインシュタインを通じて送った。米軍主導の原爆開発「マンハッタン計画」でも中心を担った。45年7月、示威実験をして日本に降伏を考えさせるよう説く嘆願書をトルーマン大統領に宛てて提出したが、届かなかった。同年8月、広島、長崎に原爆が投下された。

 シラードの嘆願書には、科学者約3千人のうち70人が署名したことが、米国立公文書館の資料で明らかになっている。

 大平さんは2016年5月、現職米大統領として初となるオバマ氏の広島訪問を伝えるテレビ番組で、嘆願書を知った。短大時代に平和デモに参加した経験があり、「最悪の兵器を開発した科学者の責任を明文化していたことに衝撃を受けた」。17年1月に渡米。8日間滞在し、嘆願書に署名した科学者や核軍縮に携わる研究者ら8人に話を聞いた。

 彼らは開発に関わったことへの自責の念を話すと想像していたが、後悔は口にしなかったという。「科学者としての使命を果たそうとする過程で、原爆の威力を示して戦争を終結させようとした目標が、開発を成功させるという目的にすり替わった。後悔や謝罪は、科学者としての生き方を踏みにじることになるという葛藤を感じた」と話す。

 これまで暮らしをテーマにした著書が多かったが、24冊目で初めて戦争を扱った大平さん。国会図書館(東京)に出掛けたり、米国立公文書館のホームページから資料を入手したりした調査の過程や苦労も、主観を交えてつづった。「1人の主婦が平和を考える過程を見てもらい、核兵器は遠い物ではないと感じてほしい」としている。

 17年7月に国連で採択された核兵器禁止条約を推進した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」は同年12月、ノーベル平和賞を受賞。一方で、米国の「核の傘」に頼る日本は、条約を批准していない。大平さんは「市民の関心が世論を底上げする。核は難しいと感じている人に本を手に取ってもらいたい」と話している。

 KADOKAWA刊で、四六判328ページ。1900円(税別)。

(1月6日)

長野県のニュース(1月6日)