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米大統領1年 多国間主義を手放すまい

 トランプ大統領が就任して1年になる。

 「アメリカ第一」を掲げ、環太平洋連携協定(TPP)やパリ協定から離脱し、国連教育科学文化機関(ユネスコ)からの脱退も決めた。米国自らが提唱し、けん引してきた多国間主義を捨て、国家主義へと変貌したかに映る。

 経済のグローバル化は格差拡大をもたらし、取り残された中下層労働者の不満がトランプ氏を大統領に押し上げたとされる。

 憤まんは、大衆迎合の手法を用いた極右政党の台頭といった形で欧州各国にも表れている。

 国際協調路線は衰退していくのか。不透明感が漂う。

<国益第一の内実は>

 大統領が、パリ協定離脱を発表したのは昨年6月だった。

 海氷溶解、漁獲量の激減、農作物の生育異常、干ばつ、洪水など温暖化が要因とみられる被害が頻発している。温室効果ガスの排出量が世界2位の米国も昨年、ハリケーンや山火事に見舞われ、損失は30兆円を超えたという。

 離脱しただけではない。オバマ前大統領が打ち立てた温暖化対策を次々と撤廃。国内では環境保護局の予算を大幅に削り、国外では途上国の温暖化対策を支援する基金への拠出を止めている。

 大統領は、協定が米国の労働者に不利益を強いていると語った。かつて自動車製造や鉄鋼生産で栄えた「ラストベルト(さびた工業地帯)」が念頭にあったのかもしれない。自身を支持する白人労働者が多く暮らす地域だ。

 国民生活の向上を優先させたいというのなら、まだ理解できる。本当にそうだろうか。

 メキシコ国境に壁を造る計画を立てる。イスラム教徒を敵視した移民排除を企図する。ツイッターを通じた人種差別、女性蔑視とも取れる放言も目につく。最近も、カリブ海のハイチやアフリカ諸国を「便所のような国」と言ったとされ、批判を浴びている。

 アメリカ第一―と言うより「白人第一」ではないのか。“人種のるつぼ”である米社会の分断を、大統領が助長している。

 自国の利益に結び付くのか、首をかしげる判断もあった。昨年12月にエルサレムをイスラエルの首都と認定したことだ。

 米議会は1995年、首都と認定する法律を成立させている。だが、歴代の大統領は中東の混乱を避けようと実施を先送りし、関係国とともに、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を和平の基本路線としてきた。

<協調の成果示そう>

 一方的な方針転換の背景に、大統領の支持基盤であるキリスト教右派やユダヤ系の意向があったとされる。ユネスコ脱退でも米国は「(ユネスコが)アラブ寄りである」ことを理由に挙げた。

 イスラム国(IS)の余波が収まらない中東に火種をまいた米政権に対し、国連総会は認定撤回を迫る決議案を採択した。大統領は中東和平に力を尽くすと言うものの、イスラム諸国の反発は強く、期待はできない。

 米国とともに民主主義の価値観に立脚してきた欧州も“トランプ現象”に揺らいでいる。

 ドイツではメルケル首相率いる政党が過半数に届かず、連立協議が難航。3月に総選挙を控えるイタリアでは、欧州連合に懐疑的な政治組織「五つ星運動」が支持率でトップに立つ。昨年のフランス大統領選では、交互に政権を担ってきた中道右派と左派の候補がいずれも予備選で姿を消した。

 米大統領選の予備選で、民主党のサンダース氏は、個人主義的で非人間的な競争社会の改革を訴え、若い世代の支持を得て1300万票を集めた。右に振れるか左に振れるかは別とし、グローバル化のひずみの是正は、多くの人々の要請なのだろう。

 一国では経済を制御しきれないからこそ、多国間で改善策を探る必要がある。パリ協定をはじめ、国際合意に至った政策を着実に軌道に乗せたい。当面は、多国間協調が自国の利益につながる例を米政権に示していくほかない。

 米国全体が国際社会に背を向けているわけではない。主立った自治体、企業、大学などは政権とは一線を画し、温室効果ガス削減に取り組むと宣言している。

<日本政府も役割を>

 移民規制に州政府が反対し、差別的な政策や発言に抗議する市民運動も盛んだ。民間レベル、自治体レベルで連携を図る余地は十分に残っている。

 トランプ陣営が大統領選でロシア政府と共謀したとされる疑惑の捜査の手は、ホワイトハウス中枢に伸びようとしている。11月の中間選挙を前に、与党共和党が上下両院で負けるとの観測が早くも広がっている。国政がままならなくなった大統領が、北朝鮮や中東情勢に絡み、どんな外交手段に打って出るか見通せない。

 揺さぶられることなく、多国間協調を維持したい。米政権に言うべきは言い、ただしていく姿勢は日本政府にも求められる。

(1月20日)

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