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映画「わたしを離さないで」は英国の作家カズオ・イシグロさんの同名小説が原作だ。主人公は田園の寄宿舎で育った若い男女。「あなたたちの人生は決められています。ある目的のため生まれてきたのです」。そう教え込まれていた

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「目的」とは臓器提供のこと。施設の子どもたちは遺伝子技術でつくられたクローンだ。大人になれば臓器を見知らぬ人に授けて命を閉じる。身体を「利用」されるためだけに生きる理不尽な定めだ。それでも懸命に生を全うしようとし、愛が芽生える

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本物の恋ならば特別許可が下り「提供」の前に数年の猶予が与えられる―。そう信じて愛し合った彼らの結末は…。ノーベル文学賞を受賞したイシグロさんの代表作だ。1996年、世界初のクローン羊「ドリー」が誕生。生命の尊厳を巡り盛んになった論議が執筆を後押しした

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中国の研究チームがクローンサル2匹をつくったという。ドリーと同じ手法を人間と同じ霊長類に使った。日本を含め多くの国がクローン人間づくりを禁じているが、科学技術の進歩やあくなき欲望が人間への応用に向かわせる恐れがないとはいえまい

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ドリーは老化が早く6歳で安楽死させられた。薬効の実験に使うという中国のサルにはどんな運命が待つのか。イシグロさんが原作で描きたかったテーマは「人間の生と死」という。クローンの倫理問題を論ずる前に、生きるとは何か、死とは何かを考えてほしいとのメッセージだろうか。

(1月26日)

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