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論文不正 土壌に目を向けなくては

 科学研究への信頼を損なう論文不正がやまない。再生医療の分野で世界的に注目される京都大のiPS細胞研究所でも捏造(ねつぞう)が明らかになった。不正を生む土壌に目を向けなければ、根本的な解決につながらない。

 脳に有害物質が入るのを防ぐ「血液脳関門」の機能を持つ構造体をiPS細胞から作ることに成功した―。研究所の助教が筆頭著者となった論文は昨年3月、米科学誌に掲載された。ところが、主要な図をはじめ17カ所で捏造や改ざんが見つかっている。

 他の大学、研究機関でも近年、不正は相次ぐ。理化学研究所の研究員らによるSTAP細胞論文の捏造のほか、東京大でも大量の論文不正が明るみに出た。

 文部科学省は各大学、機関にデータ管理や倫理教育の強化を求め、不正防止策が講じられてきた。iPS研究所は、研究者に実験ノートを3カ月ごとに提出させるなど、厳しくチェックする仕組みを設けていたという。

 それでも防げなかった。チェック体制を再点検するとともに、あらためて研究者倫理を徹底することが欠かせない。同時に、背景にある構造的な問題に踏み込んだ対策をとる必要がある。

 見落とせないのが、若手研究者の雇用が不安定なことだ。博士号を得た後、常勤の職に就いていない「ポストドクター(ポスドク)」は1万5千人を超すという。運営費交付金が減らされた国立大は、任期付きの教員が40歳未満の6割以上を占めるまでになった。

 任期内に成果を出すことを求められ、研究職を続けられなくなる不安も大きい。重圧から不正に走った事例も目につく。

 今回の助教も任期付きだった。3年余の雇用期間は、論文掲載の時点で残り1年。30代半ばという年齢も考えれば、成果を焦る気持ちはなかったか。

 任期付きの研究者の立場は弱い。そのことも不正への関与につながってきた。上に立つ教授らの指示を拒めず、捏造や改ざんをさせられた事例は少なくない。

 ポスドク増加の根底には、科学技術立国を掲げて政府が進めた大学院重点化政策がある。博士課程の修了者は急増したが、受け皿は増えなかった。

 若手の研究者が腰を据えて研究に取り組むのが難しい現状は、研究力の低下に結びつく。不安定な雇用の状況を改善し、科学研究を下支えすることは政府の責務である。それが不正の土壌をなくすことにもつながる。

(1月26日)

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