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優生手術 重大な人権侵害 救済を

 〈優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する〉―。障害者らへの差別意識に根差した旧優生保護法の下、戦後半世紀近くにわたって、多くの人が不妊手術や堕胎を強いられた。

 1996年にようやく法は改められたが、補償や救済は一切なされていない。重大な人権侵害を放置できない。国は実態を調査し、救済を進める責任がある。

 旧法により不妊手術を受けさせられた人は2万5千人近い。その1割余、およそ2700人の個人名を記した資料が19道県にあることが共同通信の調査で分かった。長野県は含まれていない。

 裏返せば、9割近くは被害を裏付ける資料が残っていない可能性がある。時間がたつほど、廃棄や散逸により実態の把握は困難になる。補償、救済の道が閉ざされることにもなりかねない。

 1948年に施行された優生保護法は、ナチスの断種法に倣った戦前の国民優生法が前身だ。知的障害者や精神疾患、ハンセン病の患者らへの不妊手術、人工妊娠中絶を認め、本人の同意を得ない強制手術も可能だった。

 さらに国は53年の通知で、身体の拘束や麻酔のほか、だまして手術をすることも容認した。法もその運用も、尊厳を踏みにじるものだったと言うほかない。

 強制手術の7割が女性だったことを踏まえ、国連女性差別撤廃委員会は一昨年、調査と救済を行うよう日本政府に勧告している。日弁連も昨年、被害者への謝罪と補償を求める意見書を出した。

 けれども政府は、かたくなに拒む姿勢を変えない。当時は適法だったから補償の対象にはならない、という理由である。

 日本と同様に障害者の不妊手術を法律で認めていたスウェーデンは90年代、政府が委員会を設けて実態を調べ、補償制度を設けた。ドイツも戦後、ナチス体制下で手術を強制された被害者に補償金や年金を支給している。

 憲法は個人の尊重を根幹に置き、人権の保障と法の下の平等を定めている。旧優生保護法はその精神と全く相反する。当時は適法という政府の強弁に理はない。

 命の選別につながる優生思想は社会になお深く根を張っている。不妊手術や堕胎を強いられた被害者の救済は、その克服に向け、欠くことのできない一歩である。

 宮城県の60代の女性は30日、国に損害賠償を求める裁判を起こす。被害者の訴えを正面から受け止め、政府は後ろ向きの姿勢を改めなければならない。

(1月27日)

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