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敗戦後、日本は兵士の帰還や出産ラッシュで人口が急増、食糧難にあえいでいた。1948年6月、国会で審議されたのが優生保護法案だ。超党派による議員立法だった。参院厚生委員会の会議録によれば提出議員の一人はこう訴えた

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産児制限は優秀な国民が取り組み、能力が低い国民は行わない。精神病患者らの増加で国民の質が下がる「逆淘汰」が起きている。先天性の遺伝病者の出生を抑制することが、国民の急増を防ぐ上からも、民族の逆淘汰を防ぐ意味からも極めて必要だ―

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逆淘汰の考えには批判的な議員もいたが優生思想は似通っていた。成立した保護法は母体保護を掲げたとはいえ、下敷きにした戦前の国民優生法よりさらに優生思想が色濃くなる。「不良な子孫の出生を防止する」として精神疾患、遺伝性疾患などを理由にした不妊手術を認めた

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東大大学院教授の市野川容孝さん(医療社会学)は論文に書いている。多くの人は優生学が戦争のための思想や政策だと決め付けているがそうではない。優秀な国民を戦場で失った戦後になって説得力を持つ思想だ、と。優生保護法は半世紀も永らえた

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15歳で不妊手術を強制された女性が国に損害賠償を求め訴訟を起こした。泣き寝入りしていた人たちが声を上げる呼び水になるといい。人間の淘汰を出生前に完了させる出生前診断は優生学者が19世紀に描いていた夢(市野川さん)という。過去の総括なしに未来に歩を進めてはいけない。

(2月1日)

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