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3人の刑事が土足で下宿先に上がってきた。1933(昭和8)年2月4日未明のこと。小学校教員の藤井は、逮捕状も容疑も示されないまま警察に連行される―。故池田錬二さんの著書「赤いホオズキ」が描いた二・四事件の始まりだ

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教員を中心に県内600人余が治安維持法違反の疑いで摘発された。全国でも最大規模の思想弾圧事件。県歴史教育者協議会長を務めた池田さんは、体験者らの証言を集め実録的小説として96年に出版した。体験者たち亡き今、貴重な史料でもある

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取り調べでは板の間に正座させ、棒を挟んだももの上に警官が乗って踏み付ける。意識がもうろうとした藤井は思わず、「どうにでもして下さい」と口走る。すると共産党員と認めたとする調書がでっち上げられる―。当時の本紙は発表をうのみに「戦慄(せんりつ)!教育赤化の全貌」と報じた

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事件は次なる悲劇を生む。信濃教育会は汚名返上とばかりに14、15歳の子どもたちの満蒙(まんもう)開拓青少年義勇軍の送出を推進。教員は子どもと親の説得に奔走し、全国で最も多い6800人余を満州に送った。うち約1400人が帰らぬ人になっている

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小説の藤井は裁判でこう訴える。「考えること、研究することが罪になるなどというのは世界のどこにもない」。話し合ったことが罪になる「共謀罪法」が強い反対意見を押し切り成立、施行されて半年余。自由にものが言えず国策に従う時代に戻してはいけない。85年前の事件が警告する。

(2月4日)

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