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2013年夏、東京で開かれた社会学者鶴見和子さんをしのぶ会。作家石牟礼道子さんの願いに、隣り合わせた皇后美智子さまが応えた。「今度水俣に行きますよ」。熊本に戻った石牟礼さんは美智子さまへの手紙をしたためて送った

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〈もしお出になったら、ぜひとも胎児性患者の人たちに会ってくださいませんでしょうか。生まれて以来、一言もものが言えなかった人たちを察してくださいませ〉。天皇、皇后両陛下は10月に熊本を訪問。日程には急きょ非公式の場面が組み込まれた

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胎児性患者との面会である。熊本日日新聞によれば、58歳の男女2人が生い立ちや30代後半からの急激な体の変調による苦しみを、もつれる言葉で両陛下に語った。翌日、石牟礼さんはパーキンソン病のため入院していた病院から熊本空港に駆けつけ、帰京する両陛下を見送った

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代表作の「苦海(くがい)浄土(じょうど)」は水俣病の患者と家族の苦悩や怒りを描いた。1960年代後半には市民会議を結成。メチル水銀を含む工場廃液を水俣湾に垂れ流し続けたチッソの本社で座り込みもした。そのころ〈祈るべき天と思えど天の病む〉と詠んでいる

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「病む」と告発したのは命や自然を犠牲にし国栄えた日本の近代だろう。その石牟礼さんが亡くなった。両陛下の公式行事は全国豊かな海づくり大会の稚魚放流だった。政治は水俣病を「過去」と印象づけようとしていないか。泉下から「水俣病は終わっていない」との声が聞こえてくる。

(2月11日)

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