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信州とも縁がある歌人若山牧水が学生時代に作ったこの歌はよく知られている。〈白鳥(しらとり)はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ〉。世にまじることなく、一人魂をはばたかせている自らを白鳥に擬したとも解釈されている

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秩父市の中学校長だった小嶋登さんは牧水のファンだった。定年退職を控えた1991年2月、音楽教諭の高橋浩美さんに頼まれた。卒業生に歌を贈りたいので歌詞を書いてほしい、と。「センスがないから」と一度は首を振ったが思い直したのだろう

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翌朝、高橋さんの机上に詩が置いてあった。〓(歌記号)白い光の中に/山並みは萌(も)えて/はるかな空の果てまでも/君は飛び立つ…勇気を翼に込めて/希望の風に乗り…。高橋さんは心が震えた。ピアノに向かうと、音符が天から降ってくるようだった。わずか15分で曲が完成したという

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「旅立ちの日に」である。先生全員が練習を重ね翌月の3年生を送る会で披露した。やがて音楽教師の研修会で評判に。専門家が混声三部合唱に編曲し全国の学校に広がった。今や卒業式の定番ソングだ。この春も涙とともに歌った卒業生は多いだろう

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小嶋さんは2011年1月、80歳で亡くなる。校長時代は「歌声が響く学校にしたい」が口癖だったという。温かくも信念を貫く教師像が浮かぶ。誰しも別れは切なく名残は尽きないが、その先には新しい出会いがある。子どもたちの旅立ちを小嶋さんは大空から今も見守っているはずだ。

(3月18日)

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