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前川氏の授業 国が干渉することか

 学校の授業内容について文部科学省が事細かに問いただすのは、教育への不当な介入である。学校の現場に萎縮が広がり、文科省の顔色をうかがう空気が強まらないか心配になる。

 文科省の前事務次官、前川喜平氏が先月、名古屋の市立中学校に講師として招かれて授業をした。その目的や経緯を報告するよう文科省が市教委に求めていた。録音の提出まで要請している。

 加計学園の獣医学部新設をめぐり、官邸が関与して行政がゆがめられたと証言した人物である。市教委に報告を求める前、自民党の国会議員から文科省に何度か問い合わせがあったという。

 校長は、招いたことを文科省が不適切だと感じているのだと思ったと述べている。市教委と学校は、授業の概略を報告したが、録音の提出はしなかった。

 林芳正文科相は、誤解を招きかねない面があったとしつつ、調べたこと自体に問題はなかったとの考えを示している。それで済まされることではない。

 教育は政治や権力から独立して行われるべきものだ。授業について現場の裁量や自主性は最大限尊重される必要がある。干渉は避けなければならない。

 前川氏の授業は「開かれた教育」の一環として行われた。全校生徒と保護者らを前に、自身の不登校の経験や、夜間中学を広げる取り組みについて語ったという。

 文科省の問い合わせは15項目。公開授業にした理由や謝礼の額など子細に及ぶ。言葉こそ丁重だが、「具体的かつ詳細」な報告を各項目で求めた。市教委の回答に「追加質問」も送っている。

 文科省は、あくまで担当部局の判断で事実関係を確かめただけだとする。けれども、そもそもなぜ確認する必要があるのか。

 ほかの学校や教委にも影響が及ぶのを不安視する声が出ている。現場の教員らが文科省の指摘を恐れて“自主規制”することにもつながりかねない。

 教育を実際に担うのは現場の教員と学校であり、教委である。政府の役割は、大枠の教育基準を学習指導要領などで示すことのほか、教育の基盤や条件を整えるため財政面で支えることにある。

 かつて教育が国に統制され、国民を戦争に動員するのに利用された反省に立って、戦後の教育制度はつくられた。その原点をおろそかにはできない。教委や学校は、文科省の管理・監督に服する下部機関ではない。事の重大さを文科省は認識すべきだ。

(3月19日)

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