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高地を吹き渡る風に無数の小旗がはためく。鮮やかな五色の旗に描かれた“風の馬”が人々の願いを仏や神に届けてくれるという。映画「ルンタ」の一場面だ。中国政府の圧政に抵抗するチベット人の思いに迫ったドキュメンタリーである

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2008年3月、北京五輪の開幕を前に起きたチベットの騒乱から10年が過ぎる。僧侶らの抗議行動が暴動へと拡大し、軍による鎮圧で多くの死者が出た。翌年、一人の僧侶が身を焼いて自ら命を絶つ。それ以降、150人以上が焼身自殺を図った

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騒乱後、抑圧はより厳しさを増した。街の各所で監視カメラの目が光り、当局の協力者がどこで耳をそばだてているかも分からない。抗議行動の計画は漏れ、捕まれば拷問を受ける。監視と密告の網が張り巡らされた社会で、人々は身を焼くほかに抵抗の意思を表すすべがないという

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鉄道や高速道路が次々に開通し、チベットの経済開発は目覚ましい。観光客が増え、高級ホテルも立った。それは大草原に暮らしてきた人々の営みや文化を壊してもいる。遊牧民たちが定住を強いられる一方で、漢民族が流入して「中華化」が進む

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開会中の全国人民代表大会(全人代)。憲法が改定され、習近平氏は絶対的な権力を手にしようとしている。チベット自治区の共産党指導部は「情勢は安定している。焼身自殺は起きていない」と言ってのけた。天翔(あまかけ)る風の馬に託した人々の願いは強権政治の暴風に吹き飛ばされてしまうのか。

(3月19日)

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