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前川氏の授業 教育ゆがめる政治介入

 事実関係の照会を表向きの理由に、政治が教育に介入する。文部科学省はその防波堤になるどころか“お伺い”まで立てていた。あきれて言葉がない。

 前事務次官の前川喜平氏が名古屋の中学校で行った公開授業について市教委に報告を求めた問題である。文科省に経緯などを照会したのは自民党の赤池誠章参院議員と池田佳隆衆院議員だ。赤池氏は党文部科学部会の部会長、池田氏は部会長代理を務めている。

 授業内容を事細かく市教委に問いただした質問は、文科省が事前に池田氏に見せて意見を聞き、手直しして送ったという。赤池氏は「圧力にはあたらない」とするが、その認識自体が問われる。

 文科省は、あくまで担当部局の判断で事実確認をしたとの説明を繰り返している。林芳正文科相は、照会があったことは判断に影響していないと述べた。どんな根拠があってそう言えるのか。

 赤池氏は、授業の翌日に池田氏から指摘を受け、すぐ文科省幹部に問い合わせたという。文科省はまず市教委に電話で確認し、両氏に説明した。その後あらためて市教委に報告を求めている。経過を見れば、最終的な判断は文科省がしたにせよ、初めから両氏の意向に沿って事を進めたのではないかとの疑念がわく。

 文科省は、今後ほかの学校が前川氏を招いた場合にも個別の判断で調査する考えを示した。政治家の介入を否定したいがための苦しい説明だろうが、現場に圧力がかかるのは間違いない。

 安倍政権の下、自民党は教育への干渉を強めてきた。一昨年、教育現場での「政治的中立を逸脱する不適切な事例」の報告をホームページで募ったのは、あからさまな例だ。教員の言動を監視し、密告を促すかのやり方である。

 ほかにも、山口県では、安全保障法制を扱った高校の授業を県議が問題視し、県議会で取り上げた。兵庫県の私立灘中学校が採択した歴史教科書をめぐっても、なぜ採用したのかと自民党の県議や国会議員が問い合わせ、学校は執拗(しつよう)な抗議にさらされた。

 教育は政治権力からの独立を保つことが何よりも大事だ。政治家や政党による干渉、介入は、教育の根幹をゆがめる。現場の自主性を重んじ、不当な圧力から守るために、教育行政が果たすべき役割を再確認する必要がある。

 教委や学校との信頼関係を大きく損ねかねない事態である。文科省は経緯を詳しく説明し、責任を明確にすべきだ。

(3月21日)

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