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淡いピンク色の花びらが冷たい風に震えている。長野市長門町の市立長野図書館のロトウザクラは春の訪れを告げる季節暦の一つだ。今年は平年より4日早く14日に開花したが、ここ数日の寒さのぶり返しで満開を前に足踏みしている

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漢字で書くと「魯桃桜」。花は桜に似ているが桃の形の小さな実をつける。植栽の由来は旧県立図書館があった1933(昭和8)年にさかのぼる。植物学者小山梅太郎が佐久の小学校にあった大木から接ぎ穂を取り寄せ、埼玉の業者に接ぎ木を頼んだ

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佐久の大木は浅間おろしの寒風が吹く3月に見事な花を咲かせていた。「日露戦争に出征した軍人が持ち帰って植えた」との言い伝えから小山は「魯西亜(ろしあ)」と木の特徴を合わせ「魯桃桜」と命名した。時代は下って1955年。職員が実生苗(みしょうなえ)を育て各地の図書館などに配り始めた

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県立図書館が若里公園に移転し跡地に市立図書館が建設された85年当時、小山が植えた木は寿命が尽きるなどで1本も残っていなかった。その後、引き継がれた実生苗が成長し「図書館の桜」が復活した。県立図書館刊行の「魯桃桜と図書館」に詳しい

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松本市中央図書館の木は7〜8分咲きという。岡谷市立岡谷図書館はまだ固いつぼみだ。地域によって花の時期は異なっても、一足早い桜色は長く厳しい冬をしのいだ信州人の心身を和ませてくれる。ロトウザクラに魅了された人々が織り成した80余年の物語に思いをはせつつ満開を待つ。

(3月22日)

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