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石綿訴訟判決 被害補償の間口広げる

 建設現場でアスベスト(石綿)による健康被害を受けたのは、会社に雇用された「労働者」だけではない。多くは個人で仕事を請け負う「一人親方」だった。その実態を踏まえて補償の間口を広げる司法判断である。

 東京高裁が、一人親方の被害について国に損害賠償を命じる判決を出した。有害物を規制し、職場環境を保全する労働安全衛生法の趣旨、目的からは、労働者かどうかにかかわらず保護が及ぶ、との考え方を示した。

 建設現場での被害をめぐっては、肺がんや中皮腫になった元労働者や一人親方らが各地で集団訴訟を起こしている。これまでの判決は、一人親方は法が定める労働者にあたらないとして、国の賠償責任を認めてこなかった。

 一歩踏み込んだのは、東京高裁が昨秋、別の訴訟で出した判決だ。一人親方の一部を、働き方の実態から実質的に労働者だと判断し、国に賠償を命じた。今回はさらに、法による保護の枠組みを捉え直すところまで歩を進めた。

 建設現場で同じように働き、深刻な被害を受けながら、労働者かどうかで分け隔てられるのは理不尽と言うほかない。“仕切り”を取り払う判断を高裁が示したことは画期的である。

 石綿による被害は、工場の従業員らへの国の賠償責任を認めた最高裁判決が2014年に確定している。一方で政府は、建設現場での被害を「別の問題」だとして置き去りにしてきた。

 石綿を吸い込んで起きる肺がんや中皮腫は発症までの期間が数十年と長く、労災の認定を受けるのも容易でない。石綿健康被害救済法に基づいて医療費を支給する制度はあるが、給付額は十分とは言えない。そもそも救済法は、国の責任が前提の「補償」ではなく、「見舞金」の位置づけだ。

 耐火性や断熱性、防音にも優れた石綿は、天井や壁の建材などに大量に使われてきた。早くから発がん性が指摘されながら、原則全面禁止されたのは06年である。

 工場や建設現場で働いた人のほか、周辺の住民や、作業服に付着した石綿で家族にも健康被害が起きている。建材が使われた公営住宅の住人が中皮腫になった事例も明らかになった。

 対策を怠り、被害を拡大させた国に厳しい目を向ける司法判断が続いている。裁判に時間がかかる間に亡くなる原告も多い。被害の実態を把握し、幅広い補償の仕組みをつくることは、政府が早急に取り組むべき責務である。

(3月24日)

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