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司法取引 冤罪の教訓生かさねば

 罪を犯しても他人の罪を告げれば免責される。捜査のあり方の大転換である司法取引が6月1日に始まる。施行日を定めた政令を政府が閣議決定した。

 自分の罪を逃れるために、無実の人を巻き込む。そんな懸念が拭えない。慎重な運用を求める。

 司法取引は、一部の反対意見を押し切って一昨年成立した改正刑事訴訟法に盛られた。

 逮捕された容疑者や起訴された被告が、共犯者らの犯罪を解明するため供述や証拠提出に協力すれば、恩典を与える仕組み。起訴の見送りや取り消し、より軽い罪での起訴や軽い求刑などがある。

 対象になる犯罪は、改正法で薬物や銃器関連、贈収賄、組織的詐欺などを明示していた。今回、政令で独占禁止法違反、金融商品取引法違反といった経済事件を多く追加している。改めて国会での議論が必要だ。

 司法取引は、組織犯罪で末端の容疑者から上部や首謀者に迫るのに有効な手法とされる。一方で冤罪(えんざい)を生む心配もある。

 米国では日本とは桁違いの事件数を効率的に処理するため、古くから司法取引が多用されてきた。DNA鑑定の普及で明らかになった冤罪の2割余は、司法取引での誤った供述が有罪の根拠になったとの調査がある。

 日本でも同様の事例がある。

 名古屋市発注の清掃事業を巡る談合事件。部下の供述によって市幹部が共犯者として逮捕された。裁判所は「部下が自分の責任を軽くするために上司を引き込む虚偽の供述をした」などと認定した。幹部の無罪が確定している。

 政府は、虚偽の供述に懲役5年以下の罰則を設けたり、司法取引の協議の場に弁護人を立ち会わせたりすることで歯止めが利くと説明している。

 だが罰則によって、いったんうその供述で取引に合意すれば、引き返せなくなる。

 また、取引に立ち会うのは容疑者の弁護人で、巻き込まれる人の弁護人ではない。容疑者の有利になるよう事を運び、チェック機能は働きにくいとの指摘もある。

 改正刑事訴訟法には取り調べの録音・録画(可視化)も規定され、来年6月までに義務化される。その対象は裁判員裁判になる場合など全体の3%の事件にすぎない。司法取引を含め密室のやりとりを後で検証できるよう全事件に拡大すべきだ。

 供述を偏重せず、客観的な証拠収集を徹底することも数々の冤罪が残した教訓である。

(3月26日)

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