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斜面

冬は白い布団をかぶせたような鉢伏山(1928メートル)の雪解けが進み、頂上近くの斜面に雪形が現れてきた。長い首を左下斜めに伸ばし羽を広げて飛ぶ「鶴」のように雪が残る。あと数日で形が整うという。松本地方に春本番を告げる

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このところの陽気が急(せ)かすのか。半世紀近く観察を続ける自然写真家丸山祥司さんによれば平年に比べ2週間ほど早い。場所や時期によって農具のすきの「ス」など別の形にも見立てられる。かつては安曇野から塩尻まで広い地域の重要な農事暦だった

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2013年4月、丸山さんは現地で「鶴」を実測した。結果は体長が103メートル。両翼は合わせて336メートル。冬の季節風が地吹雪を起こし運ばれた雪がくぼ地にたまる。周りが解けると形が浮かぶ。気候によって時期は前後しても地形が変わらないため鶴の大きさや形はほぼ同じだ

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中国の古詩にはこう歌われる。〈年年歳歳花相似(ねんねんさいさいはなあいに)たり、歳歳年年人同じからず〉。自然は悠久であり変わらない。人の命ははかなく、世は移ろいやすい。雪形にも先人たちは人生を重ね合わせ感慨を覚えたのではないか。世代を超え伝わるゆえんだろう

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県消防防災ヘリが墜落して9人が亡くなった現場は、山頂から北北東に800メートル余の谷筋だ。家族ら親しい人との突然の死別ほど悲しい出来事はない。どこにいても鉢伏山に目が行くという遺族がいる。中腹に名刹(めいさつ)牛伏寺がある祈りの山だ。手を合わせてみたい事故から2年目の春である。

(3月30日)

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