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社会に出る皆さんへ 人との間へ積極的に

 新年度が始まる。

 進学や転勤で新たな土地に赴く人もいるだろう。同僚や級友の顔触れが変われば、気持ちも自然と改まる。

 新入社員は、期待と不安で緊張しているかもしれない。

 門出を祝福したい半面、胸を張って迎え入れることのできない社会のありさまに、もどかしさも募る。

 少子高齢化が進み、成長拡大路線には限界が見える。どう乗り越えるか。誰も答えを持たない難局に、若い皆さんと力を合わせて向き合っていきたい。

 民間の意識調査を読むと、今春卒業した学生たちが就職先を選ぶ際、「楽しく働ける環境」を重視したことが分かる。

 入社1年目の電通の女性社員が過労の末、自ら命を絶ったのは2015年12月だった。その後も過労自殺、過労死は相次いでいる。皆さんが、きちんと休みを取れるか、私生活と両立できるか、を考えるのは当然だ。

 「働き方」は大きな社会問題となり、政府も重い腰を上げた。働き方改革関連法案を近く国会に提出する構えでいる。

 新たに定める残業時間の上限は繁忙期の特例で「月100時間未満」、2〜6カ月の平均で「80時間以内」となっている。過労死ラインに相当する時間数で、前進したとは言い難い。

 けれど、法案の成立を待つことなく、労務管理の見直しに動きだした企業も少なくない。人手不足のなか、経営姿勢を改善しなければ新卒者の採用が望めない事情があるものの、政界や経済界を動かした要因の一つに、若者たちの問題意識が挙げられる。

   <楽しく働くため>

 心にとどめてもらいたい。このところの就職活動は、学生に有利な「売り手市場」とされる。それでも、同世代の多くが非正規雇用で働くことを余儀なくされている。学生時代に借りた数百万円もの奨学金を返済しなければならない人たちがいる。

 給料から差し引かれる税金や社会保険料、病気やけがで離職した際の生活保障、あるいは社会人の技能訓練の場の有無なども、政治と結び付いている。

 国の政策だけでなく、自分たちが暮らす自治体の施策にも目を配り、意思表示することは社会人としての大切な役割だ。

 日本生産性本部によれば、うつ病をはじめ心の病にかかる10〜20代の社員が急増している。私生活と両立しながら楽しく働ける職場にするため、労働者の側が声を上げ続けなければならない。

 休日を確保し、平日も早めに退社することで、どう時間を使うつもりでいるのだろう。

 友人や恋人、家族と過ごし、趣味に没頭する時間は生涯の財産になる。それ以外にも、長い社会人生活を送る上での目標を持っておいた方がいい。

 7年後の25年、日本は5人に1人が75歳以上という超高齢社会になる。皆さんが中堅世代となる30年には65歳以上の高齢化率は30%を超え、人口が急減し始める。

 介護や医療、年金などの社会保障制度は維持できるのか。国民の負担はどこまで膨らむか。産業の将来、公共サービスのこれからも気にかかる。

 さまざまな問題が想定されていながら、先を行く私たちは次代に備える社会の設計図を十分に描けていない。

   <アンテナを高く>

 それぞれが関心を持つ領域で成し遂げたいことを探求し、必要になる技能は積極的に身に付けておきたい。人より秀でた目標である必要はない。

 そうした目標はきっと、人と人との関係性のなかで培われる。

 社会学者の見田宗介氏は、人の身体自体が、多くの生命の共生のシステムであることに着目。その事実が「われわれが何にほんとうに歓(よろこ)びを感じるかということにも、じつに豊饒(ほうじょう)な可能性を開いている」と説いている。

 批評家の小林秀雄氏は「人間は自分を知るのに、他人という鏡を持っているだけだ」と端的に言い切っている。

 人との関係づくりは、超高齢社会を生きる鍵にもなろう。

 家族形態の変化に伴い、高齢者を中心に1人暮らし世帯が増えている。他人同士が共同生活を送る試みが各地で広がっている。日常生活を維持するため、身近な人たちと支え合う社会づくりは、もう理想論とは言えない。

 若い世代の意識に、こんな傾向も見られた。上司や同僚と勤務時間以外は付き合いたくない―。

 皆さんが望んで入った職場であれば、目的や問題意識を同じくする人たちはいる。先入観は封印し、耳目のアンテナを高く張って出発してほしい。ただ、くれぐれも無理はしないでください。

(4月1日)

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