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19世紀の米国で女性参政権運動の中心だったスーザン・B・アンソニーは演説が苦手だったという。聴衆が怖く言葉はすらすらと出てこない。木訥(ぼくとつ)とした話し方は、かえって真実味を与えた。言葉に詰まると聴衆は続きをじっと待った

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沈黙の後に発した思いは聴衆の心に刻まれた。性別による投票権制限を禁じた憲法修正条項が成立したのはアンソニーの死から14年後の1920年。「アンソニー修正条項」と呼ばれる。「スピーチの天才100人」(サイモン・マイヤー)から引いた

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3月下旬の演説も、米国の歴史を変える可能性を秘めているかもしれない。銃乱射事件が起きた米フロリダ州の高校に通うエマ・ゴンザレスさんの演説である。銃規制を求める大規模な集会で演壇に立ち、犠牲になった友人の名前と思い出を次々に読み上げた後、突然、沈黙した

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前を向いて涙が頬を伝う。声援を送っていた聴衆も黙り込み、張り詰めた空気に。アラームが響いたのは、演説開始から6分20秒後。銃の乱射と同じ長さだった。恐怖を沈黙で表現したゴンザレスさんは「私たち自身が(規制のため)闘おう」と訴えて、割れんばかりの歓声に包まれた

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銃規制を求める運動は事件のたびに起き、何度も銃擁護派に押しつぶされた。今回は高校生の訴えが広がり、ワシントンなどで行われた集会には計数十万人が参加した。沈黙は時に雄弁より真実を語る。言葉だけは達者な大統領はその重みに気が付くのか。

(4月2日)

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