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ひよこに抗生物質と葉酸を与えると成長が促進された―。1946年、米国の研究チームが初確認した現象だ。最初に試したのはストレプトマイシン。その数年前に発見されたばかりで結核の治療薬として人類を救った抗生物質である

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養鶏など畜産業を取り巻いている風景はがらりと変わった。価格も安くなった抗生物質を飼料に混ぜて与えることが日常になる。家畜の体格は良くなって畜産農家の収入も好転した。長崎大教授で医師の山本太郎さんが「抗生物質と人間」に書いている

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ここに来てSF映画のような悪夢のシナリオが語られている。医療現場と同様に「使い過ぎ」が原因だ。抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」が家畜の体内にできる。それが排せつ物や食品を通じて人に広がっていく。治療に抗生物質を使っても効きにくくなり疾病が大流行する…

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現実味を帯びてきたと憂うのは厚労省の研究班の調査が明らかになったからだ。国産や輸入の鶏肉の半数から薬剤耐性菌が検出された。健康な人には影響ないというが、免疫力が落ちた病人や高齢者の体内に入って感染すれば深刻な事態を招きかねない

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ストレプトマイシンを投与したマウスは他の感染症にかかりやすくなり、サルモネラ菌にはわずか数個で感染した―。発見から10年後、別の研究者が発表した実験は長く埋もれていた。「ヒトにとって有益なだけの薬は存在しない」(山本さん)。その意味をひしひしと感じる時代である。

(4月5日)

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