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国宝岡山城の天守が炎上した1945年6月29日未明の岡山空襲は市街地の3分の2を焼き、1700人以上が亡くなった。9歳だった高畑勲さんは着の身着のまま、はだしで自宅を飛び出し、爆弾で負傷した姉と火の海を逃げ回った

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中学校長の父は御真影を守るため学校に向かった。離れ離れの一家が奇跡的に助かり、再会したのは翌日だった。野坂昭如さんの小説を映画化した高畑さんの代表作「火垂(ほた)るの墓」は、焼夷(しょうい)弾が降り注ぎ人々が逃げ惑う、このときの光景を忠実に描いた

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幼い兄妹を通して戦争の悲惨さが胸に迫る作品だが、高畑さんは「反戦映画ではない」と常々述べていた。将来の戦争を防ぐためには、空襲体験を語る以上に戦争をどうして始めてしまったのか、為政者や国民はどう振る舞ったのかを学ぶことが大事だ―との思いがあったからだ

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商業主義が幅を利かすアニメ界で自分の考えを貫いた希有(けう)な監督の一人だろう。「映画人九条の会」の呼び掛け人となり、積極的に「護憲」を訴えた。空気を読んで同調しやすく世間体を気にする国民性、異論を認めたがらない社会の危うさを心配した

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テレビ「アルプスの少女ハイジ」から宮崎駿監督との二人三脚のヒット作、そしてスケッチ風の「かぐや姫の物語」。徹底した観察と取材で実写以上に実感が持てるアニメの可能性を広げた功績は大きい。昨夏の本紙の取材に「次作の準備が張り合い」とも語っていた。残念な訃報である。

(4月7日)

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