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猿におだてられた猫がいろりの中から栗を拾う。栗は猿に食べられ猫はやけどを負っただけ―。フランスの詩人ラ・フォンテーヌの寓話(ぐうわ)だ。「火中の栗を拾う」とは自分の利益にならないのに他人のため危険を冒すことにたとえられる

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日本サッカー界のためあえて「火中の栗」を拾ったならばその決断に拍手を送りたい。日本代表監督に就いた西野朗さんである。協会技術委員長を務めチーム事情を熟知しているとはいえ、ロシアW杯まで2カ月しかない。重圧は並大抵ではないだろう

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1998年フランス大会のアジア最終予選。成績不振で監督が更迭され、コーチだった岡田武史さんに急きょ交代した。その後も2試合連続で引き分け。岡田さんは容赦ない批判を浴びる。自宅には脅迫電話がかかってきたり箱に「毒入り」と書いてあるサツマイモが届いたり…

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追い込まれた時、詩人相田みつをさんの言葉に出合う。〈途中にいるから中ぶらりん、底まで落ちて地に足が着けばほんとうに落ち着く〉。土壇場で開き直ったという。将棋の羽生善治さんとの対談で語っている。日本は最終戦に勝ちW杯出場を決めた

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岡田さんは07年にも前監督の病気で再登板。10年の南アフリカ大会でベスト16に入った。とはいえ「火中の栗」の繰り返しは好ましいはずがない。日本サッカー界が未来図を描けていないからでもあろう。世界との差も広がっている。いばらの道を西野さん一人歩かせるわけにはいくまい。

(4月11日)

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