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赤信号なのに陸軍1等兵は交差点を突っ切った。警察の巡査が「待て」と叫ぶ。1等兵は「何を止めるか。俺は公務だ」とやり返した。1933(昭和8)年6月、信号機が設置され間もない大阪。けんかは陸軍対警察の大騒動になる

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軍人といえども街頭では市民として巡査の命令に従うべきだ。警察側はそう主張した。陸軍側は「統帥権」をふりかざし、天皇のために尽くす軍隊に対して国民が文句を言うのは間違っている、と頭から威圧し続けた。世に言う「ゴーストップ事件」だ

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半藤一利著「昭和史」から引いた。理不尽な軍部にたてつき四つに組んだのはこれが最後になったという。軍国主義はじわじわ浸透。36年、青年将校がクーデターを起こし政府要人を殺害した(二・二六事件)。翌年に日中の全面戦争が始まる。政治は軍部を制御できなくなった

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私たちは軍という実力組織の統制に失敗し先の大戦で310万人の命を失った。戦後、政治が軍事に優越する「文民統制」の徹底を掲げてきたのはこの反省ゆえだ。防衛出動も国民の代表から成る国会の承認がいる。その議員に自衛隊員が暴言を吐いた

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議員はイラク派遣の日報隠蔽(いんぺい)問題で自衛隊を追及している。「おまえは国民の敵だ」とは国民を守っている自衛隊を批判するのは許さない、ということだろうか。ネット空間では「よく言った」と隊員をたたえる言葉が飛び交っている。陸軍1等兵の亡霊が歩いているかのようで気になる。

(4月19日)

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