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人間の顔をした社会主義―。チェコスロバキアの共産党が一党独裁の旗を降ろす行動綱領を採択したのは1968年4月のことだ。検閲を廃止し、言論や結社の自由を認めた改革運動は、管理と統制でこわばった社会に生気を吹き込んだ

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けれども「プラハの春」はほどなくついえる。社会主義への脅威と見たソ連が軍事侵攻し、党幹部をモスクワに連行。自由は圧殺された。映画監督のミロス・フォアマンはこれを機に母国を離れ、米国に移り住む。半世紀を経た先日、86歳で亡くなった

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代表作の一つ「カッコーの巣の上で」(75年)は、学生のころに見た忘れがたい映画だ。鉄格子に閉ざされた精神病院で、手なずけられた動物のようにおとなしく暮らしていた患者たちが、反抗して自由を得ようとする姿を描いた。監督自身の体験が色濃く投影された作品である

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終盤、らんちき騒ぎで羽目を外した若い患者が婦長に厳しく〓責(しっせき)され、自殺してしまう。怒った主人公は婦長を絞め殺そうとして取り押さえられ、隔離された後、病棟に帰されるが…。ジャック・ニコルソン演じる主人公の変わり果てた姿に息をのんだ

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従順であることを患者に強いる病院のあり方は、人間を抑圧する管理社会を暗示する。時代を経て今、監視技術は進み、膨大な個人データが集積されるようにもなった。それにならされるうち、新たな形の管理社会が姿を現しつつあるのではないか。映画を見返し、そんな思いにとらわれた。

(〓は叱の異体字)

(4月23日)

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