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目を近づけると、彫刻家の指紋まで読み取れるかのようだ。粘土に込めた思いが見る者に迫ってくる。荻原守衛の代表作の一つ「北條虎吉像」の石こう原型だ。碌山美術館(安曇野市)で開催中の開館60周年記念企画展で展示されている

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石こう原型とは、作家が制作した粘土の像を型に取って石こうに置き換えたもの。石こう原型から鋳型を作り、青銅を流し込んでブロンズ像ができる。原型は風化しやすい。壊れたらそれきり。虎吉像も普段は収蔵庫の奥深くに大切にしまっている

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虎吉は帽子商だったという。像は仕事で交流のあった守衛の兄の依頼で作った。穏やかさと心(しん)の強さが伝わってくる。今回展示の原型は重要文化財に指定されている。明治以降の重文原型は6点しかない。守衛の「女」もそのうちの一つで、こちらは東京上野の東京国立博物館にある

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碌山美術館は1958(昭和33)年、地元有志が中心になり寄付を募って建設された。「この館は29万9千百余人の力で生まれたりき」と書いた銘板が掲げられている。屋根に尖塔(せんとう)を置く。キリスト教の教会を思わせる造りは守衛の信仰に由来する

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瓦やレンガを運ぶ作業は地元の中学生が手伝った。初めは「珍しい建物」と受け止められたというが、今では周りの風景に溶け込んで、安曇野になくてはならない存在になっている。「守衛の作品と一緒に、建ててから60年の時の流れも見てほしい」と学芸員の浜田卓二さん。5月27日まで。

(4月24日)

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