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留学応援プロジェクト ボールは大人の側に

 挑戦させたい。

 13日付の本紙「信毎ヤンジャ」に掲載された、高校生3人の留学計画を読み、そんな思いが募った。

 ニュージーランドで大自然を生かした街づくりを学びたい。信州にシリコンバレーをつくりたい。英国の少子高齢化対策を参考に提言をまとめたい―。

 企業関係者を前にした3人のプレゼンテーションは、短くは伝えきれないほど具体性に富む。

 若者たちの発想をどう支えていくか。ボールは大人の側に投げかけられている。

 高校生の留学応援プロジェクトは元々、上田高校(上田市)の生徒たちが立案した。

 名称は、長野県に再び帰るを意味する「NAGAIN(ナガイン)」。いまは早稲田大2年生になっている山浦菜緒さん(19)が友人たちと構想を練り、2年をかけて準備してきた。

 自治体や地元企業を回り、高校で留学への関心を聞くアンケートを取った。周囲の大人や先輩にも相談し、意見を聞いて歩いた。生徒たちの留学に対する知識や意欲を高めるワークショップも重ね、この3月末、初めてのプレゼンを実現させている。

 信州への貢献を柱に高校生が留学計画を発表し、賛同する企業から出資を募って実らせる。NAGAINが目指す仕組みだ。異文化体験や語学研修といった型通りの留学ではなく、関心事に沿った海外経験を目的とする。地元企業との接点をつくり、若者の定着を図ることにも重点を置く。

 プレゼンを聞きに来たのは7社で、うち4社から計29万円が寄せられた。成果はあったものの、この金額では3人分の留学費用はまかなえない。

   <協力の手をもっと>

 新しい環境に置かれれば、若い人たちの目標も自然と変わる。出資企業の直接の利益になるかは定かでない。それでも、彼らの成長に貢献する観点から、もっと多くの企業が手を挙げてもいい。

 山浦さんら運営メンバーは、進学希望者だけでなく、就職する高校生にもプレゼンに参加してほしいと願っている。教員に勧められる会社に入社する生徒が目立つなか、自主的な企業選択につながると考えるからだ。

 参加を呼びかけようと、NAGAINの趣旨をまとめた印刷物を高校で配ろうとした。ところが、断られている。高校側は「趣旨は理解できるし応援もしている。ただ、責任がどこまで及ぶか分からない」と説明する。

 渡航先での事故、金銭トラブルなどを想定しているのかもしれない。10代の任意団体が手がける企画では心もとないのであれば、高校や県教委が手助けしてプロジェクトを軌道に乗せるなど、工夫の余地はあるだろう。

 運営メンバー個々にも学生生活があり、将来の目標がある。法人化を助言する人もいるというが、継続性ばかりにとらわれていては新たな芽は育たない。

 しっかり時間をかけて留学計画を立て、生徒たちを何度かでも送り出せれば、生徒たちにとっても運営メンバーにとっても、先々の大きな糧になるはずだ。まして彼らは、将来は信州に帰って働こうと考えているのだから。

   <柔軟に寄り添って>

 県は今月、「就業促進・働き方改革戦略会議」を発足させた。不足する人手の確保を最重要の県政課題に位置付け、学生のUターン就職も推進する構えでいる。

 どの地方自治体も、人口減少に歯止めをかけようと躍起になっている。国がうたう「地方創生」に乗っかり、従来の施策を焼き直したような少子化対策、若者定住策を進めている。

 これまでの社会構造を維持するために、若い世代を押しとどめても展望が開けるとは思えない。

 NAGAINだけではない。少子高齢化、グローバル化、地球温暖化、資源の枯渇、財政難、成長路線の限界…。近未来を生きる若い人たちは、予測される問題群を見据え、どう生きたらいいかを探り始めている。

 田舎暮らしに憧れ、地方に移住する若者たちが徐々に増えているのも一例だ。全国で活躍する地域おこし協力隊員の多くが、任期後も過疎地にとどまっている。

 主に首都圏の大学に通う県内出身の学生が集う「信州若者1000人会議」は、ふるさとのためにやりたいことを発表し合い、仲間を募る場として続いてきた。ここに参加した山浦さんは「学生たちはいろいろなアイデアを持っている。プレゼン力にも優れ、学んだことは多い」と話す。

 彼らが熱意と行動力を存分に発揮できる環境こそ、これからの信州に欠かせない。慣例や慣習にとらわれることなく、柔軟に寄り添っていきたい。

(4月29日)

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