長野県のニュース

斜面

19世紀英国の作家オスカー・ワイルドの童話「幸福な王子」は、王子の像がツバメに頼んで、像を飾る宝石を貧しい人たちに与える物語だ。ツバメは渡りの機会を逃して死に、像も町の人たちに溶かされる。無償の愛のはかなさや尊さを感じさせる名作だ

   ◆

有島武郎はこれを再生と再会の物語「燕(つばめ)と王子」に翻案した。ツバメは王子に「来年また会おう」と説得されて南に渡っていく。像は寺の鐘になって涼しい音を響かせる。軒下に巣をつくり、日本では幸運を呼ぶとされるツバメ。有島も死なすのは忍びないと思ったのだろうか

   ◆

人々の期待に応えているのか、ツバメは日本に渡ってくる夏鳥のトップバッターでもある。暖冬傾向が続いた今年は例年より1週間程度早く各地から目撃情報がもたらされた。子育ても既に始まっており、餌になる虫を求め空中を素早く飛び回っている

   ◆

幸運を呼ぶとされる理由には諸説ある。農業の害虫を餌にしていること。家の様子をよく観察して、人の出入りの多い店や家で巣作りするため千客万来で商売繁盛につながる―などさまざまだ。風通しがよい家を選ぶので病人が出ないともされる

   ◆

最近はツバメを見る目も変わりつつある。ふんが嫌われ、巣が取り除かれることも。数年前の調査では4割の人が数が減ったと感じていた。多少の迷惑を我慢できなくなっているのは余裕のなさの表れなのか。宝石を運んでこなくても、その子育てを見守ればいとおしくなる。

(5月1日)

最近の斜面