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古代、モモは魔よけや不老長寿の力を持つ神聖な果実と考えられていた。最初に登場する「古事記」には実を投げて悪霊を追い払う神話がある。江戸時代の民間療法では実や種、花、葉、樹皮などがさまざまな病を癒やすのに使われた

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中国から伝わったモモの実は今のハナモモのように小さく、まずかったらしい。奈良県桜井市の纒向(まきむく)遺跡では大型建物跡から2千個以上もの種が見つかっている。女王卑弥呼(ひみこ)の墓との説がある「箸墓(はしはか)古墳」があり邪馬台国(やまたいこく)の有力候補とされる遺跡である

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放射性炭素年代測定を行うと、この種は西暦135〜230年産で、卑弥呼の時代と重なることが判明した。第一人者の中村俊夫さんらが厳密に分析した最近の成果である。出土した土器の年代推定と自然科学の手法がほぼ一致したのも興味深い。女王が祭祀(さいし)に使ったのだろうか

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中国では魏呉蜀(ぎごしょく)が争った三国志の時代。魏に使者を送ったと史書にある邪馬台国はどこにあったのか。九州か、畿内か。明治時代から続く論争は史学、考古学、文化人類学などの領域を超え、在野の研究者も加わって、いまだに決着がつきそうにない

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種の年代特定は「畿内説を後押しするだろう」と報じられたが、九州説の学者からは疑問が出ている。国の成立にかかわる論争は研究者の数だけ候補地がある、といわれるほど多様だ。宮内庁が管理する箸墓古墳を発掘できたら決着につながるかも―。モモの種からロマンが広がっていく。

(5月19日)

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