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同性パートナーの制度 地方から国を動かす

 「彼氏はいるの?」

 こう聞かれるたびに違和感を感じた。だれもが異性を愛することが前提になっていると思った。

 松本市内の20代の女性には婚約者がいる。相手の性別は女性だ。

 女性しか愛せないと打ち明けると、連絡が取れなくなった友人もいた。

 「普通」であることが当たり前とされる社会。自分たちのような人の存在は無視されていないか。

 なぜ、結婚できないのか。パートナーが病気になっても家族と認められず、病室に入れないかもしれない―。不安にさいなまれる。



   <対象1400万人に>

 自分たちが存在することを知ってほしいと思った。選んだのは、市議会への請願の提出だった。

 「『性的少数者はいないもの』としてできた社会の制度や学校教育の仕組みは、性的少数者にとって生活上の困難を抱える原因になっている」―。請願書にはこう記し、「多様性に理解のある学校や社会の実現」を訴えた。

 請願は3月16日、本会議で採択された。女性は「第一歩を踏み出せた。将来は(自治体が同性カップルなどを公認する)同性パートナーシップ制度などを実現したい」と話す。

 LGBTとも表記される性的少数者は13人に1人いるとされる。同性や両性を愛する人、生まれながらの性別に違和感があるなどして異なる性別で生きる人のことを指す。愛する性別の対象(性的指向)や、自分の性別の認識(性自認)は多種多様だ。自分が男女どちらでもないと感じる人もいる。

 こうした人たちが声を上げ始めた影響で、既存の制度は変わりつつある。

 代表的なのが同性パートナーシップ制度だ。2015年に東京都渋谷区と世田谷区で最初に導入された。その後、全国に広がり、4月に導入した福岡市で7番目となる。さらに東京都中野区や大阪市などが導入予定だ。

 世田谷区で制度導入を区に働き掛けた上川あや区議によると、検討中の自治体で実現すると、制度の対象となる人口は全国で計1400万人を超えるという。

 ただし、制度は大都市部が中心で、地方は緒に就いたばかりだ。

 今回の請願採択を受け、松本市も対応に乗り出している。人権・男女共生課は、性的少数者の専門家による職員の研修を予定している。同性パートナーシップ制度は「情報収集を含め、どう対応していくか考えたい」とする。

 香川県丸亀市は今年4月に制度をスタートさせる予定で準備を進め、市議会に要綱案を提示した。議員からは周知や啓発が不足しているなどの指摘が出たため、実施を延期した。

 制度が十分に広がらないのは、性的少数者の存在が地方では見えにくいことが原因とされる。

 性的少数者は地方にも確実に存在する。ただ、根強く残る偏見や差別に苦しみ、周囲に知られないように生活している場合が多い。「存在が見えない」のは、それだけ偏見や差別が大きいと考えるべきではないか。行政や議会が対応しない理由にはならない。

 制度の多くは、カップルが宣誓書に署名し、自治体が受領証などを発行する仕組みだ。法的な拘束力はなく、税制上の優遇措置や遺産の相続権はない。それでも制度導入を望む性的少数者が増えているのは、自治体が公認する意味が大きいからだ。



   <段階踏み理解広げる>

 渋谷区の調査によると、制度で得た証明書をパートナーが手術を受ける際に病院に提示した人や、生命保険会社に示して受取人を変更できた人がいた。

 世田谷区の上川区議は「国はこれまで同性を愛することに正当性を与えてこなかった。自治体が公認すれば同性カップルの土台が変わる」と話す。

 民間で同性カップルを認める動きも進む。婚姻関係と同様の割引やサービスの実施のほか、社員の家族手当などを婚姻と同じにした企業も少なくない。

 それでも国が認めなければ越えられない壁はある。急逝した同性パートナーと築いた財産の相続を求める訴訟も先月、大阪地裁に起こされたばかりだ。

 先進7カ国(G7)では、日本以外の6カ国が同性婚やパートナーシップを国として制度化している。早稲田大の棚村政行教授によると、これらの国では、自治体で公認制度が始まって全国に広がり、最終的に国が認めた例が多いという。

 棚村教授は「首長が理解し、応援すれば企業に波及し、やがて国を動かす。段階を踏んで理解を求めていくことが必要」と話す。

 県内の自治体も例外ではない。地方が一歩を踏み出して大きな流れにつなげたい。

(5月20日)

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