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カンヌ最高賞 映画文化の新たな一歩

 是枝裕和監督の「万引き家族」がカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた。

 貧困など日本社会が抱えている問題を背景に、都会の片隅で暮らす家族の姿を通して人間の絆とは何かを考えさせる。

 是枝監督は、伊那市でドキュメンタリー番組を撮影した経験があるなど、信州との縁も深い。映画文化の新たな一歩ともいえる快挙を、ともに喜びたい。

 フランスで開かれる世界最高峰の映画祭である。ベネチア、ベルリンとともに世界三大映画祭と呼ばれる。日本作品の最高賞は1997年の今村昌平監督の「うなぎ」以来、21年ぶりとなった。

 おばあちゃんの年金を頼りに、父と子が万引をしながら暮らす家族を描いた。海外メディアは「社会的敗者を適切な距離感で人間として描くことのできる、世界でまれな監督」と評価している。

 是枝作品のカンヌでの受賞は3回目。ネグレクト(育児放棄)で置き去りにされた子どもたちを扱った2004年の「誰も知らない」で主演の柳楽優弥さんが男優賞に、13年には、出生時の取り違えを題材にした「そして父になる」で審査員賞を受けた。

 いずれの作品も困難を抱えた家族を扱っている。登場人物の欠点を批判するのではなく、人間性を肯定し、取り巻く社会について考えさせる描き方が特徴だ。

 万引き家族は、親の死亡届を出さずに年金をもらい続ける不正受給事件の報道に着想を得たという。「今の日本社会の中で隅に追いやられている、本当だったら見過ごしてしまうかもしれない家族の姿をどう可視化するか」。問題意識を、そう語っている。

 是枝監督は大学卒業後、テレビ制作会社に入りTVドキュメンタリーから出発した。1988年から3年間、伊那市に自費で通いながら、小学校で牛を飼う子どもたちを取材してまとめた。

 思うようにいかない番組作りに出社拒否して休んでいた時、報道で知った伊那小学校の取り組みに「あの子どもたちなら撮りたい」と思ったという。鋭くも温かい目線は、このころから養われたのだろうか。「伊那は自分の仕事のスタートの地」と話し、2012年にも伊那市を中心に連続テレビドラマのロケを行っている。

 伊那小通いから約30年。是枝監督はカンヌで、「ここを目指す若い映画の作り手たちと分かち合いたい」と喜びを語った。今回の受賞が、日本映画のさらなる充実に結び付くことを期待したい。

(5月22日)

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