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袴田事件 再審の扉を閉ざすな

 確定した死刑判決には重大な疑義が生じている。にもかかわらず、袴田巌さんの再審開始を取り消す決定を東京高裁が出した。疑わしきは被告人の利益に―

という刑事裁判の原則を顧みない、納得できない判断である。

 姉の秀子さんが2008年に申し立てた第2次再審請求に対し、静岡地裁は14年、犯人と認める証拠はないとして再審開始の決定を出していた。死刑と拘置の執行も停止し、袴田さんは釈放された。逮捕以来、48年ぶりだった。

 犯人が着ていたとされる衣類に付いた血痕が、DNA型の鑑定で、袴田さんのものでも被害者のものでもないとされた。地裁は、検察が新たに開示した証拠も踏まえ、捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)した疑いを指摘している。

 一方、高裁は今回のDNA型鑑定について「確立した科学的手法ではない」として信用性を認めなかった。証拠捏造の疑いについても「具体的な根拠に乏しい」と退けている。

 高裁は4年に及んだ審理の多くをDNA型の鑑定手法の評価に費やしてきた。その信用性を否定し、地裁の決定をことごとく不合理として、確定判決に合理的な疑いを挟む余地はないとする判断は、一面的で説得力を欠く。

 事件は1966年に起きた。静岡のみそ製造会社専務宅が全焼し、一家4人の他殺体が見つかった。血痕の付いた衣類が、みそ工場のタンクで発見されるのは、1年以上たってからだ。しかも、ズボンは袴田さんには小さすぎて履けないサイズだった。

 再審請求審で、地裁の求めにより検察側が初めて開示した証拠はおよそ600点にも上る。出火直後、袴田さんが従業員寮にいたことを同僚が証言していたことも分かった。事件前後に目撃した人がいない、としていた検察の立証と食い違っている。

 ほかにも判決が認定した事実と矛盾する点がある。確定判決の信頼性は揺らいでいる。冤罪(えんざい)の恐れに目をつむるかの姿勢は、司法の責任を自らなげうつに等しい。裁判自体をやり直し、全ての証拠を洗い直して、真相を明らかにしなければならない。

 袴田さんは82歳になった。長年の拘禁で精神を病み、釈放後は故郷の浜松で秀子さんと暮らす。初公判から一貫して無罪を訴え、死刑が確定した翌年に本人が再審請求をしてから40年近くになる。

 弁護団が特別抗告し、審理の場は最高裁に移る。再審の扉を一刻も早く開く判断を求める。

(6月12日)

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