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米朝首脳会談 非核化の行程描いてこそ

 トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の会談が行われた。

 焦点の非核化を巡る主張の隔たりは埋まらなかったのだろう。共同声明の内容は曖昧で核廃棄の具体的な期日や方法は盛り込まれなかった。

 それでも、朝鮮戦争以来、敵対してきた米国と北朝鮮の首脳が、関係改善に向け交渉の席に着いた意義は小さくない。

 史上初の会談は朝鮮半島の冷戦構造を解き、平和体制を築く出発点に位置付けられる。関係国も協力して核廃絶の行程を描き、着実に前進させてほしい。

<対話路線に転じて>

 挑発するように、昨年まで核実験とミサイル発射実験を繰り返し「国家核戦力完成」を宣言した金氏が、対話路線に転じたのは今年に入ってからだ。

 平昌冬季五輪に代表団を派遣したのを皮切りに、中国や韓国の首脳と、過去6年間は一度もなかった会談を続けた。米国務長官に就いたポンペオ氏とも、2度話し合っている。

 4月の文在寅韓国大統領との会談では「完全非核化」をうたった板門店宣言に署名。「米国が終戦と不可侵を約束すれば、核を持って苦しい生活をする必要があるだろうか」と漏らしたという。

 北朝鮮の姿勢が変わった背景に米国による軍事圧力に加え、国連安全保障理事会から科されてきた厳しい経済制裁がある。

 昨年から主要産品の石炭や繊維製品、海産物が全面禁輸となり、貿易のほとんどを占める対中国輸出が8割超も落ち込んだ。石油精製品の輸入も9割減り、原料が不足し平壌市内の製品生産に支障を来している。

 経済建設に総力を挙げる新路線を掲げた金政権にとり、制裁緩和は喫緊の課題となっている。

 こうした事情に、高度化する北朝鮮の核・ミサイルを看過できなくなった米国の思惑が重なる。中間選挙を控えるトランプ氏が3月、米朝会談の実現を求める韓国の高官に「よし会おう」と応じ、にわかに現実味を帯びた。

 「完全で検証可能な後戻りできない非核化」を突き付ける米国に北朝鮮が反発すると、トランプ氏は公開書簡で会談の中止を表明する。これも駆け引きのうちだったのか。北朝鮮の要人が金氏の親書を携えて訪米すると、姿勢を和らげ、見返りを得つつ非核化を進めるとする北朝鮮の主張に一定の理解を示し始めた。

<心もとない声明文>

 ふたを開けてみれば、今回の会談の成果は、北朝鮮の側に大きかったように思える。

 共同声明に「完全非核化」が明記されたとはいえ、いつ、何を、どのように―という記述はなく、板門店宣言の域を出ない。

 一方で北朝鮮は、朝鮮戦争の終戦宣言、平和協定の締結、国交正常化といった具体的な手順こそ欠くものの、最もほしかった体制保証の言質を得ている。

 これまでに米朝間や6カ国協議で結ばれた核放棄の合意は、北朝鮮による秘密裏の核開発や査察拒否で破綻してきた。トランプ氏は過去との違いを「われわれは(約束を)進める人だ」と説明したがいかにも心もとない。

 北朝鮮には現在、14〜33個の核兵器があると推定されている。年3〜5個の増産能力があるとみられるものの、半世紀に及ぶ核開発の全容は定かでない。

 解明には、国際原子力機関の専門職員300人が3年間活動する必要があるといい、米国の研究機関は核廃絶に最長で10年かかると予測している。

 米国が訴えてきた「1〜2年以内の非核化」に無理があったのかもしれない。これからの交渉では専門家の意見も入れ、綿密な行程表を作らなければならない。

<深刻な人権侵害も>

 米朝間の歩み寄りを見越してか、中国やロシアが北朝鮮の制裁緩和に向けた動きを取り始めている。失敗を避けるには、非核化と「見返り」で各国が足並みをそろえることが不可欠だ。

 安倍晋三政権が要請してきた拉致問題を、トランプ氏は「提起した」と言う。けれど、主要な議題にはならなかったようだ。

 日本人や韓国人の拉致被害者だけでなく、北朝鮮の政治犯収容所には12万人が拘束されていて、強制労働や拷問などの迫害を受けているとされる。政治家の粛清も後を絶たない。

 仮に非核化に進展があったとしても、人権弾圧に目をつぶったまま、国際社会が金政権を承認することはできないはずだ。

 国際人権団体は米朝会談の直前、金氏に宛て「劣悪な人権状況の改善」を求める書簡を送った。日本政府は、近くモンゴルで開く国際会議を手始めに北朝鮮との直接対話に臨む構えでいる。

 交渉の際、拉致問題にとどまらず、人権侵害を改めることが国際包囲網を解く鍵になると説くべきだ。各国の幅広い支持を取り付け、北朝鮮が抱えるもう一つの問題の解消を主導したい。

(6月13日)

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