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思想弾圧「二・四事件」裁判記録見つかる

「二・四事件」で被告となった藤原晃さんの「陳述速記録」の一部。裁判官が共産主義に関心を持った理由などについて尋問している「二・四事件」で被告となった藤原晃さんの「陳述速記録」の一部。裁判官が共産主義に関心を持った理由などについて尋問している
 1933(昭和8)年に県内の教員ら608人が摘発された思想弾圧事件「二・四事件」の裁判記録が見つかったことが22日、分かった。被告の小学校教員6人と裁判官のやりとりを記した速記録で、専門家によると具体的な陳述が分かる記録の発見は初めて。社会全体が戦時体制に傾斜し、思想対策が強化されていく中で、権力と向き合った教師たちが語った言葉を記す、全国的にも貴重な史料だ。

 長野県史によると、同事件では教職員29人を含む計74人を起訴した。天皇を頂点とする「国体」の変革や、私有財産制度の否認を目的とする運動や団体を取り締まる治安維持法違反に問われた。

 速記録は、教員の指導監督を担う県の担当課に32〜40年に勤務した男性(故人)が保管し、遺族が昨秋、県内の教育史を調査していた立教大文学部(東京)の前田一男教授(62)=日本近代教育史=に寄託した。ガリ版刷りで計約360ページあり、表紙に「秘」と赤い印が押されている。

 速記録に記されていた6人は、当時の一般使用人組合教育労働部の長野支部書記長だった藤原晃(あきら)さんや、「左翼運動」の中心人物と見なされた河村卓さんら。公判は34年4月17日以降、長野地裁(石田弘吉裁判長)で順次始まり、同5月21日に全員が有罪判決を受けた。

 記録からは、教員が共産主義に関心を持った理由がうかがえる。藤原さんは「(児童の)個性ヲ十分ニ発揮サセヤウトスルナラバ社会ニ於ケル不平不平等ヲ除クデナケレバ吾々ハ児童ヲヨリヨキ立場ニ置クコトハ出来ナイ」と発言。「児童ノ生活ヨリ反映シタ社会相等ヲ見テ漸次共産主義運動ニ行ツタ」と述べている。裁判官からは、天皇制の認識についての質問が目立つ。

 前田教授は「個を尊重する教師の意識に(貧困などの)社会問題がかぶさった時、共産主義とつながったのではないか」と推測。子どもの個性を重視し、信州でも発展した「大正自由教育」の影響があったとみる。「天皇制を支える教育を担う小学校教師に揺らぎがあっては、天皇制が崩れてしまう―という支配層の危機感もうかがえる」と分析する。

 同事件を巡っては、これまで、裁判に入る前の「予審尋問調書」や「予審終結決定書」の一部が見つかっている。同事件に詳しい上田小県近現代史研究会の小平千文会長(75)=上田市=は「(速記録と)予審段階の史料を突き合わせることで、裁判の実態がより明らかになる」とし、今後の分析に期待している。

(6月23日)

長野県のニュース(6月23日)