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使命胸に遺体と向き合う 警視庁の女性検視官

 警視庁でただ一人の女性検視官として活躍する山下浩子警部(右)=6月(警視庁提供、画像の一部を加工しています)  警視庁でただ一人の女性検視官として活躍する山下浩子警部(右)=6月(警視庁提供、画像の一部を加工しています)
 遺体の様子をつぶさに観察し、事件性の有無を見極める―。警視庁鑑識課の山下浩子警部(47)は、同庁に現在いる28人の検視官の中で、ただ一人の女性として活躍している。「犯罪死を見逃さないことが使命」。重い覚悟を胸に、日夜、遺体と向き合っている。

 警視庁の検視官は、捜査に10年以上従事し、警部か警視の階級を持つ人物しかなれない。求められるのは専門的な知識と、冷静な判断力。多くのポストで女性登用が進む中、同庁の女性検視官は山下警部でまだ2人目だ。

 神奈川県出身。大学時代にボランティアで児童養護施設の子どもたちと触れ合った経験から、少年や少女を非行や犯罪から助けたいと思い、1995年に警視庁へ入った。

 巡査部長だった渋谷署刑事課時代、どんなに傷んだ遺体にも手を合わせ、丁寧に扱う上司の姿を目の当たりにし、「自分もそうありたい」と思った。機動捜査隊などを経て、2015年6月から検視官として事件現場に臨場している。

 当初は「検視官」の腕章を着けていても、管轄署の幹部から「現場を荒らすな。出て行け」と怒鳴られたこともあった。「女性の現場指揮が当たり前になるのは、まだ時間がかかる。地道な努力を積み重ねなければならない」と強く思った。

 都心のトイレ内で見つかった乳児の遺体が忘れられない。本来は祝福されるはずの命。「母親にはどういう事情があったのだろう」。現場の状況だけでなく、女性ならではの感性で事件の背景にも思いを巡らせる姿勢に、警視庁幹部は「女性の視点が加わることで、より精度の高い検視ができれば」と期待する。

 この2年余りで、検視した遺体は千を超える。16年には、住宅火災の現場で見つかった遺体や周囲の状況から「事件性あり」と判断。容疑者の早期逮捕につながったこともあった。

 遺体のわずかな痕跡も見逃すまいと目をこらす日々。思い起こすのは中学時代に亡くなったいとこのことだ。まだ小学生だった。状況から自殺の可能性もあると聞かされたが、警察の捜査で事故死と判明。悲しみは変わらなかったが、詳しい状況が分かり、せめてもの救いになったという。

 「どんなご遺体にも残されたご遺族がいることを忘れてはならない」。りんとしたまなざしに、優しさが浮かんだ。

(8月2日10時56分)

暮らし・話題(8月2日)