聖火あすへ(6)=滑降問題―本質置き去り 「環境」めぐり論議


 二月十三日、三度の日程変更の末にアルペン男子滑降が行われた。それまでの悪天候がうそのように晴れ上がった北安曇郡白馬村八方尾根。全長約三キロのコースを時速百二十キロを超えるスピードで滑り降りるレースに観衆は酔った。

 「環境五輪」を掲げ国立公園第一種特別地域にかかるコース設定は認められないとする長野冬季五輪組織委員会(NAOC)と、最高のコースを用意したいとする国際スキー連盟(FIS)、全日本スキー連盟(SAJ)が対立したスタート地点問題。選手が滑ったのは、スタート地点を特別地域外の標高一、七六五メートルとし特別地域に一部入りながら、大きく横切る部分はジャンプして飛び越えるという妥協コースだ。

 本番までの過程には、不自然さがあちこちにのぞいた。一月六日、待望の大雪。翌七日からリフト会社の圧雪車による整備が本格化した。例年より範囲が狭いとはいえ、特別地域にかかる部分を含めて、圧雪作業が進む。「ゲレンデではない」(環境庁)という特別地域内を連日スキーヤーが滑り、こぶができる。夜になると、こぶをなくすため圧雪車が入る。

 一月二十八日、標高一、八五〇メートルまで上がる「グラートクワッドリフト」が一般営業を停止。滑降コース整備が始まった。圧雪車の整備でほぼ「下地」ができたところに、自衛隊員や競技役員が足で踏み固める「つぼ足」を繰り返した。圧雪車での整備と併せ、厚さ五十センチほどの硬い雪の層をつくるのが目的だ。

 ちぐはぐだったのは、国立公園保護の「あかし」だったジャンプ部分だ。雪を盛り“うねり”をつくる作業をしたのは、コース整備の仕上げの段階。選手が飛び越える幅二、三十メートルの特別地域内は、既に地域外と同様に踏み固められ、硬いバーンができていた。

 滑降競技が終わって三日目の十六日、スタート地点引き上げに伴うコース整備の在り方を探るNAOCの「検討チーム」が現地調査に向かった。メンバーは、丸山庄司SAJテクニカルコーディネーター、丸山敏夫八方区長ら。NAOC自然保護アドバイザーの土田勝義信大農学部教授も同行した。

 コースに沿ってスタート地点まで歩いて観察、四十分ほどで調査を終えた。席をあらためての話し合いの場もないまま、「現段階で五輪コース利用では、影響は認められなかった」との結論がまとめられた。

 結果は翌日、NAOCの斎藤英四郎会長、日本オリンピック委員会(JOC)の古橋広之進会長らに報告。調査の様子を伝える新聞報道と一緒に、堤義明SAJ会長にも報告された。

 調査には、「雪解け後を見ないで影響がないと結論が出せるのか」といった疑問も出ている。八方尾根の自然保護と利用の在り方を根本に立ち戻って考えようという立場の土田教授はこの日、終始口が重かった。「結論」が特別地域内のゲレンデ化などの現状にお墨付きを与えかねないとの危ぐもあったからだ。

 「SAJは五輪で影響がなかったとの結論を、将来の大会で利用するための免罪符にしようとしているのではないか」。自然保護関係者の中にはそんな指摘もある。

 昨年、スタート地点問題を話し合った県自然保護検討会議は、「現状がすでに行き過ぎた利用になっている」と八方尾根の国立公園の問題点を指摘した。引き上げが決まったあと、県やNAOC、SAJはいずれも「五輪限りの利用」「影響が出ない方法を採用する」と、「自然保護」の姿勢を強調した。

 しかし、五輪が終わった今、自然の保護と利用をめぐる本質論議がうやむやになったまま、利用の既成事実が積み重なっていきかねない状況にある。

(1998年2月28日 信濃毎日新聞掲載)