パラリンピックPRポスター コピーに込められた思い


 長野市中心部の商店街ウインドーに、日本の五選手を起用した長野パラリンピックの大会PRポスターが張り出されている。障害の部位と競技に向かう表情を正面からとらえた五枚の写真。長野冬季パラリンピック組織委員会(NAPOC)は「障害をタブーにしないで、正面からとらえたい」という。それぞれの選手に付けたキャッチコピーは、HOPE(希望)、JOY(喜び)、MIND(心)、WILL(意志)、LOVE(愛)。選手たちは何を伝えようとカメラの前に出たのか。その思いは、長野パラリンピックが発信するメッセージでもある。(井上典子記者)

 左足切断で、アイススレッジのスピードレースとホッケーに出場する加藤正選手(29)=岡谷市=のコピーは「意志」。「成績が悪い時は批判があって当然。『頑張ったね、よくやったね』で片づけられるよりいい」と加藤選手。

 スレッジホッケーもアイスホッケーと変わらない激しいプレーがある。汚いやり方もそのまま見てほしい。「障害者だからと、きれいにまとめないでほしい。それがホッケーなのだから」

 アイススレッジスピードレースの松江美季選手(24)=東京都国立市=は、東京学芸大学で体育学を専攻、入学後に脊髄損傷で車いすを使うようになった。テレビで練習する松江さんを見た大学の友達が「スポーツしている顔は変わらないね」と言った。「それまでは友達にとっても私は『障害者』だった。やっぱり実際に見てもらうしかない」

 ポスターの表情は笑顔、コピーは「喜び」。「このポスターで私が注目されるのも悪くはない。でも、結果を出さないと、『障害者スポーツ』というくくりから抜け出せない」と言った。

 障害者や社会に向けたメッセージもある。日本選手団最年少でアルペンスキーの丸山直也選手(15)=北安曇郡白馬村=は白馬中学校でスキー部に所属している。障害のあるなしに関係のない県中学総体スキーにも義足で出場している。

 「希望」のコピーが付いた丸山選手は「パラリンピックで自分がやるべきことは、けがをした人、障害のある人にスポーツの素晴らしさを伝えること」と語気を強める。

 バイアスロン、クロスカントリースキーの視覚障害クラスに出場する本多剛選手(49)=南安曇郡穂高町。バイアスロンの射撃をする写真だ。銃に付けた音響装置が発する音に神経を集中する様子が写され、コピーは「心」。本多選手は「自分が注目されるより、パラリンピックや障害者全体に光が当たってほしい」と語った。

 ポスターはNAPOCが制作した。大会で行われる五競技を代表し、四選手とクロスカントリーの伝田寛選手(23)=長野市=を登場させた。「障害者は弱いという意識を変えたい」とNAPOC。千枚ずつ作り、長野市内の商店街だけでなく、各競技会場にも張り出されている。

 これまで作製したポスターやマスコットは、何度も議論を巻き起こしてきた。昨年十月、「両手があっても、人間です。両手がなくても、人間です」というコピーを使ったポスターは、掲示前に「差別的な表現だ」との批判があり、掲示を断念した。

 ポスターを制作したのは、二年前から大会関連のポスターやガイドブックのデザインを手掛けてきた斉藤順一さん=東京都。「写真は人も障害もそのまま写す。その人は変えられないのだから」と話した。

 ポスターには「私はアルペンスキーヤーです」といった英文も載せた。スポーツ選手として見てほしいとのメッセージでもある。松江選手は「障害のある人がスポーツをするなんてすごい―という時代は終わりにしたい」と話した。

(1998年3月2日 信濃毎日新聞掲載)