木落とし坂に「感謝」の横断幕 豪雨で被災の岡谷市湊

(2010年4月10日) 

木落とし坂の上部に掲げられた「感謝」の横断幕

 復興へと歩む住民の思いが、「天下の大祭」の晴れ舞台に込められた。諏訪郡下諏訪町で9日に始まった諏訪大社御柱祭下社山出し。曳行(えいこう)の先頭を切った「春宮四」担当の岡谷市湊地区は、木落とし坂に「感謝」と記した横断幕を飾った。2006年7月の豪雨災害で7人が犠牲となり、家屋被害も相次いだ。被災地のつめ跡は簡単には消えないが、復旧を支えてくれた人々への気持ちだけは伝えようと、文字に託した。
 同町大平の棚木場(たなこば)で春宮四の曳行が午前7時前に始まって間もなく、湊地区祭典委員会セレモニー係の約20人が、木落とし坂の上部に横断幕を張った。幅約90センチ、長さ約9メートル。赤字で記した「感謝」の右に、「湊豪雨災害時にはお世話になりました」と大きな文字が並ぶ。
 「全国の皆さん、見てくれたかな」。セレモニー係の責任者小口秀文さん(50)は優しい表情で見つめた。土石流が発生した小田井沢川流域の自宅は土砂が流入して半壊。「途方に暮れた」が、各地から駆け付けたボランティアがバケツリレーで土砂の除去を手伝い、半日で終えられた。気遣って何も言わずに立ち去る人もおり「なかなかお礼の言葉を伝えられなかった」。県内外から注目される御柱祭を通し、広く発信したかった。
 家族を失った住民がいる湊地区。土砂に埋まった経験などから、今も強い雨が降ると怖くなるという人もいる。祭典委員会副委員長の花岡宏行さん(64)によると、昨年秋までは「災害と御柱祭は結び付けないことが前提だった」という。ただ、湊には少なくとも約4千人のボランティアが訪れた。自宅が土砂で損壊した花岡さんも含め、支援者への思いは住民に共通している。祭典委は、言葉を慎重に選びながら感謝のメッセージだけは示すことにした。
 この日、春宮四はにぎやかな曳行や豪壮な木落としを経て最後の注連掛(しめかけ)に無事到着した。花岡さんは「まずはひと安心。湊の活気ある姿を見せることができた」。小口さんは、横断幕を見た知人から「この機会によくぞ(感謝の言葉を)言ってくれた」と声を掛けられたという。「人生で一番の思い出になる御柱。次はまた(地域で行われる)小宮の御柱で地元の人と思いをかみしめたい」と笑った。