TOP2014年10月「噴火が襲う」(4) 心のケア、これからも
看護師らに付き添われ、心肺停止状態の人が運ばれた木曽町の旧上田小に向かう人たち=4日午後5時47分

 「痛い、助けてくれ」―。噴石と火山灰から身を守りながら、後ろの方から聞こえた叫び声。御嶽山(長野・岐阜県境、3067メートル)の噴火災害から生還した松本市蟻ケ崎のアルバイト垣外(かいと)富士男さん(63)は、いまだにその声にうなされて深夜に跳び起きることがある。

 噴火当日の9月27日、1人で御嶽山に登った。山頂の剣ケ峰を目指して八丁ダルミを登っていると、西の方に二つの噴煙が上がった。近くに身を隠す岩は少なく、十数メートル走って逃げた。パニック状態になった人が噴火口の方角に走っていくのを見たが、どうしようもなかった。

 岩陰に隠れてしゃがみ込んだが、降り注ぐ火山灰で息ができない。「助けてくれ」。複数の男性の声を聞いたのはその時だった。

 熱風でザックのプラスチック部品は変形し、噴石が当たった金属製食器はへこんでいた。噴火翌日から3日間は、1人でいると急に涙が出て体が震えた。「なんで自分だけ生き延びたのか」という思いを消すことができない。

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 国立精神・神経医療研究センターの災害時こころの情報支援センター(東京)は、災害被災者はふいに情景や恐怖感を思い出したり、自身に落ち度があったように感じたりして苦しむことがあると指摘。こうした心理は誰にでも起き得ると知らせ、身近に支援の輪があると感じてもらうことが、被災者を孤立させないために大切だとする。

 噴火翌日から、長野県立こころの医療センター駒ケ根(駒ケ根市)などの医師、臨床心理士らは、御嶽山麓でけが人や安否の確認に来た家族らの心のケアに当たった。

 噴火による犠牲者の居住地は16都府県に及び、ほかにも多くの登山者が巻き込まれた。被災者の居住地が1カ所に集中しているわけではなく、それぞれの地元で孤立感を深める可能性がある。

 「ケアの継続が課題になる」とする長野県精神保健福祉センター(長野市)の小泉典章所長は、全国69の精神保健福祉センターが加わるメーリングリストを使い、地元に戻った登山者や家族らへのケアを依頼。厚生労働省も都道府県に同様の通知を出した。

 ただ、具体的なケアはこれからだ。噴火による死者、行方不明者が計20人に上った愛知県。同県や名古屋市のセンターには、まだ御嶽山関連の相談は寄せられていない。死者3人、行方不明者1人の山梨県のセンターも同様で、担当者は「相談先が分からずに困っている人がいるかもしれない」と懸念している。

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 御嶽山で捜索活動が続いていた間、安否不明者の家族らが待機した木曽郡木曽町の旧帝室林野局木曽支局庁舎。今年の捜索が打ち切られることになる今月16日も、朝から家族らが待機していた。

 木曽町の40代の女性職員は、家族と千羽鶴を折って時を過ごした。噴火直後は食べた物を吐いたり、「情報が少ない」といらだったりする人がいた。日がたつにつれ、職員には家族らが穏やかになったようにも見えたが、「家族を連れて帰りたい」という切実な思いは一層強まっていると感じた。

 16日夜、家族らは待ち続けた人と再会できずに自宅に帰っていった。「捜索は中断したが、心のケアを途切れさせるわけにはいかない」。県精神保健福祉センターの小泉所長は、そう訴えている。

2014年10月21日掲載